『沙織ー!』
緑で溢れる広大な庭園
広く澄み渡った空の下
私の元へ駆けてくる小さな影がひとつ
『景ちゃん!』
跡部景吾くん、私は景ちゃんって呼んでいる
──…私の、大好きな人
元々親同士が知り合いで、その子供の私たちも自然と一緒にいることが多くなり…─互いに惹かれ合った
『沙織、いいものをやる!手を出せ』
景ちゃんは走って乱れた呼吸を整えて、私に手を出すように言った
『こう?』
両手をお椀のようにして差し出すと、
『そうじゃなくて…っ!左手だ左手!』
どうやら間違っていたようで訂正されてしまった
『左手?』
言われた通りに左手の平を景ちゃんに差し出すもまた違っていたようで、景ちゃんはじれったそうに私の左手を引いた
『─…こうだ』
そして、クルッと手の甲を上にされる
『なんで?』
私は景ちゃんの意図が分からずに首を傾げる
『"こんやくゆびわ"は左手の薬指にするもんだって母上が言ってたからな。知らねえのか?あーん?』
『"こんやくゆびわ"?』
そう言った景ちゃんは私の左手の薬指に小さな指輪をはめ、私はキラキラ光る指輪が嬉しくて眺めながら問い返した
すると、景ちゃんはキュッと私の手を握って私の目を正面から見据えた
『──…沙織、お前がすきだ。大きくなったらおれ様とケッコンしやがれ』
強がってはいるけど景ちゃんのほっぺたは赤みを帯びていた
なんだかそんな景ちゃんがかわいくて、思わず顔が綻んでしまう
『わたしも景ちゃんが大好きだよ。わたしを景ちゃんのお嫁さんにしてください』
ニッコリ笑ってそう言うと、景ちゃんは顔を真っ赤にしつつも嬉しそうに笑顔を咲かせた
そして景ちゃんは私の頬にそっと手を添えて、顔を近づけてきた
私は反射的に目を閉じて──…
唇にふにっとした柔らかな感触が広がった
そっと唇が離れ景ちゃんを見つめると
『これはちかいのキスだからな!』
照れくさそうに笑いながら、私の小さな体をぎゅうっと抱き締めた…───
静かに跡部の唇が私から離れる
「景、ちゃん…?」
私が声を震わせながら跡部を見つめると、跡部はその呼び方に驚いたように目を見開いた
「お前…思い出したのか?」
「景ちゃん…、景ちゃっ…」
その名を口にすると、何故か涙が溢れて頬を伝った
ポロポロ涙を溢す私を、跡部は優しくなだめるように抱き締めてくれて…
その暖かさにまた涙が溢れた
そうか…─
夢で見た二人は…小さい頃の私と跡部だったんだ
私はこんな大事なことを忘れていたんだ
あの約束以外のことは思い出せないけど…
私と跡部は、確かに小さい時に出会っていたんだ
そして…あの頃に私はすでに…
─跡部に恋をしていたんだ
「うっ…跡部…っ、すき…大好きだよ」
跡部の背中に手を回しながら私は涙とともに溢れる気持ちを跡部に伝えた
跡部もそれに応えるように私の頭を優しく撫でてくれた
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(大好きな人へ伝えるとすれば)
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雲の空耳と独り言+α
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