あ…まただ


ぼんやりとした白い世界




そこにはいつかの男の子と女の子の姿が






男の子はポケットから小さな指輪を取りだして女の子の左手の薬指につけた


照れ臭そうにも嬉しそうに微笑み合う二人──…










「ん…」


またあの二人の夢か…

誰なんだろう…?



……ん?指輪?

あの指輪、どっかで見たような…?



ぼーっとする頭で考えを巡らせるも結論に至らず、私はむくりと体を起こした


「さて…」


夢のことも気になるけど今日はとうとうやって来てしまった跡部との映画の日


跡部は午前中は部活でお昼過ぎに映画館の前で直接待ち合わせることになっている


「とりあえず着替えよう」


ベッドから勢いよく飛び降り身支度を済ませた









「へ、変じゃないよね?」


跡部の部屋にある大きな鏡の前に立って変なところがないか確める

今日のために引っ張り出したのははお気に入りの淡いピンクのワンピース

首元がキレイに開いているため首回りが少し淋しい


「ネクレッスか何か着けようかな」


そう思い立って家から持参していた小物を入れたポーチを探る


「…あれ?」


するとシルバーのチェーンを通した指輪を見つけた


「これ…小さいときによく着けてたやつ?」


ってゆーか


「夢に出てきた指輪…?」


あまりハッキリとは分からないが今朝見た夢で女の子が貰っていた指輪にそっくりな気がした



……あの女の子は…私?


じゃあ、あの男の子は誰─…?




しばらくその小さな指輪を見つめていたが時間に遅れないためにセットしていた携帯のアラームが鳴ったので、慌ててそれを首に着けて部屋を出た











待ち合わせより少し早いけど…

時間までに映画館の前に着くことができた


「跡部…来てくれるかな…」


行くとは言ってくれたもののやっぱり心配になってきた


そう思ったとき目の前に見慣れたリムジンが停車した


「待たせたか?」


そして中から跡部が降りてきた


「あ、ううん大丈夫」



よかった…ちゃんと来てくれた


跡部は物珍しそうにマジマジと映画館を見上げた


「映画館とか来るの始めて?」

「ああ、家の映写機で十分だからな」


ぐは


「じ、じゃあ中入ろっか?」


そうして依然として辺りをキョロキョロ見渡す跡部と私は映画館に入った







映画は災害で生き別れた家族と犬の物語で私は感動して泣いてしまった


映画が終わって劇場内が明るくなる

私は慌てて涙を拭う

映画ごときで泣くのかと跡部に笑われそうだもんね


チラッと跡部の方を見ると、跡部は眉間の辺りを押さえて横を向いていた


「…跡部?どうかした?」


不思議に思って正面に回り込むも顔を反らされる


むぅー…


すっかり涙が引いた私は意地になって跡部の肩を掴んでこちらを向かせた


「ばっ…」

「へ?」


跡部の目元はわずかに赤くなっていて、目には涙が浮かんでいた


「跡部…泣いてる?」

「っるせえ欠伸だ」

「うっそだぁー」


跡部もこういう映画弱いんだ…


感動して泣いちゃうとか…


もう、可愛いなぁ



涙をみられて不貞腐れた跡部の目元をハンカチでそっと拭く


「っ!」


すると跡部は肩をビクッとさせ軽く私の手を払うと自分の指で涙をぬぐった



…照れてるの?


跡部の一挙一動にいちいちキュンとしてしまう私はもう重症なんだろうなぁ…



「ちっ、行くぞ」


すると私の顔を見ずに立ち上がって先々歩いていってしまった


「あ、待って」


その後を私は慌てて追いかけた









微妙な間をあけて道を歩く私たち

手を伸ばせば届く距離にいるのに、この距離間がもどかしい


「あ」


そんな私の目に飛び込んできたのはアイスクリーム屋さんだった


「あーん?食いてえのか?」


私の様子に気付いた跡部が聞いてくる


「うん…いい?」


窺うように見上げると、跡部はふっと小さく笑った


「仕方ねえな」


そしてどこか嬉しそうに店に向かった





私が跡部の分もまとめて選び、店の前の公園のベンチに並んで腰を下ろした


「ん…おいひー!」


自分のアイスにかぶり付くと、口内にほどよい甘さが広がる


跡部も


「ふん、たまにはこういうのも悪くないな」


と言って満足げに食べていた



アイスと跡部って…似合わなさすぎる


ふふふっと密かに笑みを洩らしていると、跡部がじっとこちらを見てきた


「ついてんぞ」

「え?……っん」


そして何の躊躇いもなく私の口元に手を伸ばし、ぐっと親指で私の口の端を拭った


「は……?」


突然のことに呆気に取られていると


「口につけるとかガキみてぇだな」


くくっと喉で笑ってアイスのついた指を口に含んだ


「えっ」

「…ん、甘ぇ」


悪戯の成功したような顔で私を見る跡部


やっと事態を把握し、私の体温カッと急上昇した


「そっちのも食わせろ」


すると、私のアイスが気に入ったのか跡部がアイスを指差した


「え…あ、スプーン貰えばよかった、ね…」


私が答えるのを待たずに跡部は身を乗り出して私の手にあるアイスにかぶり付いた


「〜っ!?」

「やっぱりウマイ」


満足げに飄々と言い放つ跡部


「そ、そう…」


私はあまりの急展開に頭がついていけずに真っ赤になった顔を隠すべく俯いた



ちょっと…さっきから何…っ

…心臓持たないからっ!



体温を下げるべくガツガツとアイスを食べきった


「なんだぁ?取られて怒ってんのか?」


そんな私の様子を不思議そうに眺める跡部


「や、別にそういう訳じゃないけど…」


無自覚かコノヤロー


「そ、そろそろ帰ろっか?」


私は誤魔化すようにそう提案した


なんやかんやで日が傾いてきていた


「じゃあ斉藤を呼ぶか」


…ほんとはもう少し、こうしていたいんだけどね?










大通りに出て斉藤さんの迎えを待っていると、何の前触れもなく首につけていたチェーンがキレてキィンと道路に指輪が落ちてしまった


「あっ…!」


慌てて拾おうと手を伸ばしたがそれより先に指輪は跡部によって拾われた


「ありがと…」

「お前がこんなもん着けるなんて珍しいな…」


物珍しそうに指輪に目をやった跡部は小さく目を見開いた


「跡部?」

「お前…これ、どこで手に入れた」

「え?」


思ったよりも真剣な声に少し体が固くなるのが分かった


「…よく、覚えてないけど…小さいときから持ってたのは確かだと思う」

「小さいときから…」


跡部は何かを確めるようにじっと指輪を見つめていた


「跡部…?」


彼の様子を窺いながら声をかけると、跡部はゆっくりと私の顔を見た


「やっぱり、お前が…」

「…え?」


そして両肩を掴まれる


「お前は…覚えていないのか?」


少し悲しそうに揺れる瞳に見据えられ、思わず息をつまらせた


「……ごめ、ん」


かろうじてそれだけ言うと、跡部は


「……そうか、すまねぇ」


と言って手を離し、私の手に指輪を握らせた






─覚えてるって、何を…?


跡部はその指輪のことを知ってるの?




ねえ─…



I couldn't remember
(思い出せないの)




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