私は跡部が好き、みたいです



最近の不整脈や謎の動悸の正体が分かってほっとした一方で…


「これからどう接したらいいのぉぉぉお!!」

「やかましい」


スパコーン


「いったぁい!」


彩花に助けを求めてすがりついたら思いっきり頭を叩かれた


「で、やっぱりアンタ跡部さまのことが好きなわけね」

「う…ぐぅ」


真っ赤になって俯くと、そうかそうかと彩花の嬉しそうな声がした


「で?これからどうするって?そんなもんガンガンアプローチするに決まってるでしょう」

「ああああアプローチぃ!?」

「何よ沙織、それぐらい常識でしょ?……アンタまさか、今まで好きな人できたことなかった…とか言う?」

「…」

「まじでか」


そう、私は今まで恋というものをしたことがない



……ん?


ってことはこれ初恋…なわけ?


わ…



それを自覚してますます体温が上昇する


「そうかぁ…そうね、アンタの様子見てたら分かることだったわ」

「えー…」


うんうん一人で納得する彩花をチラ見すると


「沙織ほんと鈍いんだもん」


と頭をグリグリされた


「うぅ…」


だって好きって気持ちなんて分かんなかったんだもん


「まあそれが沙織の可愛いところだけどねー!さて、自覚したとあらば行動あるのみね。跡部さまのクラスに行ってきなさい」

「はぁっ!?」


前触れの無さすぎる彩花の指示に思わず声をあげる


「アンタに拒否権はない、行ってきな」


彩花は威圧的な態度で私を切り捨てた


お、鬼ぃー!!













ちらっ


そういうわけで素直に跡部さまの教室を覗きに来たというわけですよ


「いない…のかな?」


ところがそこには跡部の姿はなく、ホッとしたような残念なような…


「跡部なら榊先生に呼ばれて職員室行ったで?西園寺さん」

「ぎゃっ!…忍足くん!」


…この人は私の背後を取るのが得意なのか

振り替えるとにこやかな忍足くんの姿が


「べ、別に跡部に会いに来た訳じゃ…な、いもん」


要件を言う前に跡部の名前を出されてしまったため、少し気恥ずかしい


「ふぅん?まあええわ…てっきりやぁっと自覚したんかと思うてんけど…って図星みたいやな」


忍足くんは私の赤く染まった顔を見て、優しく微笑んだ


「あ、せや」


そして忍足くんは何か思い立ったように懐を探った


なんだろう?


火照った顔をパタパタ仰いで忍足くんの動向を待つ


「ほれ、これ西園寺さんにあげるわ」


と言って差し出されたのは映画のペアチケット


「え?」

「商店街の福引きで当たってんけど、生憎一緒に行く相手がおらんもんでなぁ…跡部と行ってきたらどうや?」

「えぇっ!?」


思いもよらぬ好意に戸惑う私の手に忍足くんはチケットを押し込む


「いっ、いいの?」


恐る恐る確かめるように見上げると


「ええって言ってるやろ?」


少し困ったように笑った


「で、でも…跡部…私と一緒に映画とか行ってくれるのかな」


私がそう言うと、忍足くんは一瞬驚いた顔をしたがふぅと小さく息を吐くと


「行くに決まってるわ」


と断言した


「えぇー…でも…」



『映画だぁ?そんなもん家にあるスクリーンで十分だろうが、あーん?』



そう言う跡部の姿が鮮明に頭に浮かぶ



「噂をすれば、跡部帰ってきたで?」

「えっ、うそっ」


忍足くんの視線の先を追うと、跡部がふんぞり返ってこちらに向かってきていた


「ん?沙織じゃねーか、何してやがるこんなところで」

「べ、別にー?」



ま、まずい

要件を聞かれてつい何もないように装ってしまった


「あーん?」


そんな私の様子にやはり不可解な顔をする跡部


「アホっ違うやろ」


すると忍足くんが肘で催促してきた


いや、そんなん言われても…



そんな私たちの様子をブスッと眺めていた跡部は


「用がないなら行くぞ」


と教室に入っていこうとした



わっ、ちょっと…


「まっ、待って!」


慌てた私は咄嗟に跡部の服の裾を引いた


「っ!」

「あっ、あのね!さっき忍足くんに映画のチケット貰ったんだけど良かったら一緒に行きませんかっ!」


一気に捲し立てるように言うと、跡部は圧倒されたように目を見開いた


「え、と…嫌ならいいんだけど」


黙りこんだ跡部から返事を聞くのが怖くてシュンと頭を垂らす


すると忍足くんがひょいと私の手からチケットを奪い取った


「跡部が行かへんのやったら俺が沙織ちゃんと一緒に行こかなぁ」

「えっ?…っていうか」


な、名前…


ニヤニヤと挑戦的な笑みを浮かべて跡部を見る忍足くん


すると跡部はバッと忍足くんからチケットを奪取した


「…俺様が行く」


明らかに不機嫌な跡部


「い、いいの?」


私が確認するように訊ねると、頭をクシャッと掻かれた


「っ!」



何回もされてるけど好きだと自覚してからのこれは…なんて破壊力



一気に体が熱くなる




「よく覚えときやがれ、俺様以外の男と出掛けるなんざ許さねえからな」

「え?」


ムスッとした表情の跡部


「ほら、な?」

「わっ」


目を瞬かせる私の耳元で忍足くんが小声でそう言った


思ったよりも近距離の忍足くんに驚いていたのと同時に跡部に肩を掴まれ引き寄せられた


「ひゃっ」


ちょ、なっなに!?


焦って跡部を見上げると、彼はジロリと忍足くんを睨み付けていた


「あと、べ?」


すると忍足くんは深いため息をついた


「すまんすまん、ちょっと出すぎたな」

「…沙織、もう戻れ」

「え、あ…うん」


後ろ髪引かれながらも私は自分の教室へと向かった





何か跡部…私と忍足くんが一緒にいたらスゴい不機嫌になるような気がする…

忍足くんに対して何か対抗心とかあるのかなぁ?

あれ?でもあの二人って仲良しだよね?


何でだろう…



もしかして─…



私といるとき…だけ?



私はピタリと足を止めて手の内にあるチケットに目を落とした



とりあえずは成り行きとはいえ跡部と映画に行くことに…なっ、た?


「うわっ!」


これは、でででデートというやつ!?


ど、どうしよう…









「俺らも教室入ろか」


沙織が二人の前を去った後、跡部と忍足は教室に入ろうとした


その時、不意に跡部が口を開く


「…忍足」

「うん?」

「アイツを名前で呼んでいいのは俺様だけだ」

「…はいはい」


忍足はやれやれと言ったように肩をすくめた


magic ticket
(魔法のきっぷ)
title by...
夜風にまたがるニルバーナ




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