あの日以来、悩みの種であった跡部信者からの嫌がらせはピタリと止み、私はすっかり落ち着いた学校生活を取り戻していた



しかし



私には新たな悩みの種ができていた


「おい、沙織」


ぴくっ


「な、なに?」


不意に跡部に声をかけられて私はすっとんきょうな声を上げてしまう


「なに?じゃねぇだろうが。さっきからボーッとして…熱でもあるんじゃねーの?」


そう言って跡部はためらいもせず私のおでこに手を当てた


「っ!?」



かぁーっ



「ん…ちょっと熱くねぇか?」


自分のおでこにも手を当てて体温を比べる跡部


「だっ、大丈夫だから!」


私はさりげなく跡部の手から逃れて元気アピールをすべく腕を振り回す


「ほら、ね?」


跡部は納得していないようだったが、小さく息をつくと


「行くぞ」


と学校に行くべく先に部屋を出ていった




「はぁー…どうしちゃったんだろ」


自分の火照った両頬に手を当てる



最近跡部に触れられると、体が熱を帯びる


跡部に対してどう接していいのかも分からない



こんな症状は初めてで─




「どうしよう…」



どうしていいのか分からない



「おい、何してやがる。置いていくぞ」


いつまでも部屋から出てこない私に痺れを切らして跡部が戻ってきた


「わっ、わっ待って今行く!」


結論が出ないまま私は慌てて跡部の後を追った









「あ」


放課後になり、ボケーっと渡り廊下を歩いていると、少し離れた前方に跡部の姿を見かけた



どき




……ん?


謎の胸の高鳴りを感じ、私は首をかしげて自分の胸を押さえる


しばらく様子を見ていると跡部に声をかける女の子の姿が


何やら親しげに話している



むぅー……


なにこれ、何かモヤモヤする



「あれ?西園寺さんやん、どないかしたん?」

「わっ…お、忍足くん…」


一人で今まで感じたことのない感情に動揺していると、後ろから忍足くんに声をかけられた


「何に見てるん?…って跡部やん」


忍足くんは私の視線の先にいる跡部を認識すると


「生徒会の子かー…跡部のやつも色々掛け持ちして大変やなぁ」


と小さく息を吐いた


「生徒会の子…?」



なんだ、仕事関係の話か


私がほっと息をつくと忍足くんが不思議そうに私を見てきた


「どないかしたん?……もしかして、ヤキモチか?」

「ヤキ、モチ?」



私がヤキモチ?なんで?




キョトンとしていると忍足くんは

「無自覚かいな…」


跡部もお気の毒やなぁ、と訳の分からないことを言った



「忍足くん…?どういうこと?私…最近変みたいで自分でもよく分からないんだよね」


私が懇願すると、忍足くんは困ったように頭を掻いた


「んー…こればっかりは自分で気付くんが一番やからなぁ」


そしてポンポンと私の頭を軽く叩いて


「自分の気持ちに正直になったら自然と分かるんちゃうかな」


と優しく微笑んだ


「忍足く…─」

「お前ら、何やってやがる」

「跡部っ!?」


その時、いつの間にか話を終えていた跡部が私たちに声をかけた


「ふっ…そないな怖い顔せんでも、心配するようなことはなんも無いで?」


何故か忍足くんを睨み付ける跡部

忍足くんは困ったように肩をすくめ、私の頭から手を引っ込めた


「おら、行くぞ」

「へっ!?あっ、跡部?」


グッと手をひかれ、私は跡部に引っ張られる形で忍足くんの前を後にした




「…ほんまに見てて焦れったいなぁ」


残された忍足は、困ったように、だが楽しそうに二人の後ろ姿を眺めた







「跡部っ?ちょ、待って…」


ぐんぐん歩を進める跡部に私は着いていくのがやっとで…



ってゆーか…手っ、繋いでる…



私がワタワタしているとピタッと跡部は足を止め、前を向いたまま言った


「必要以上にアイツに近付くな」

「えっ、なんで?」


突拍子もない言葉に私は首をかしげる


「…ちっ、俺様が近付くなと言ったら近付くな」

「えぇー!?意味分かんないしー!」

「うるせぇ!俺様が嫌なんだよ!」


訳が分からない私がブーブー不満を言っていると跡部はバッと振り返って半ば怒鳴るように言った


「……ふぇ?」


そう言った跡部はバツが悪そうに顔を背けたが、その頬はうっすら朱がさしていて─



どきん


どきん




私はそれ以上反論が出来ずにかろうじて

「…うん」


とだけ言った


すると跡部は満足そうに私の頭をクシャッと掻くと


「じゃあ部活が終わるまでしっかり待ってろよ」


と言ってテニスコートの方へ向かった



私は跡部の後ろ姿を眺めながらそっと頭に手をやった


やっぱり跡部に触れられたところは熱を持つ


忍足くんの時は感じなかった熱


収まらない鼓動




『自分の気持ちに正直になったら自然と分かるんちゃうかな』




「訳分かんないよ…」


─この悩みの種はしばらく私を苦しめそうです



go the long way round
(遠い回り道をする)
title by...
夜風にまたがるニルバーナ





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