「あ、待って」

「あーん?」


私はリビングを出ようとした跡部を引き留めた


「だいぶ散らかっちゃったから片付けてからでもいい?」

「…ああ、そうだな」


リビングは強盗の男に荒らされて、あちこちに物が散乱していた




そうして私たちはリビングを片付け始めた



金目のものはここには無かったので特に取られたものはなかった


あ、因みに強盗は斉藤さんが警察に引き渡しに行ってくれた




簡単なところを跡部に片付けてもらっていたが、不意に跡部が動きを止めた


「ん?どうかした?」


不思議に思って後ろから跡部の手元を覗き込んだ



跡部が手にしていたのは1枚の写真だった



「これは、お前の写真か?」


そこに映っていたのは異国の地でかわいらしいスカートをひらめかせながら微笑む小さな女の子


「…うん、多分」

「あーん?多分ってどういうことだ」

「だって私、何でか分かんないけど小さい時のことほとんど覚えてないんだよね…小学校に上がるまではイギリスにいたらしいんだけど」

「イギリス…」

「で、それがどうかした?」

「お前…いや、何でもねえ」


跡部は少し考え込む素振りを見せたが、すぐに首を横に振った


「?ならいいけど…」


じっと写真を見つめる跡部の様子が気になったが私は片付けを進めた


「よっし、これでオッケー」


とりあえず散らかされたものを片付け終えた



ちょうどその時、警察に行っていた斉藤さんが戻ってきたので跡部邸に向かうべく車に乗り込んだ






車の中で斉藤さんが私の実家辺りで強盗が犯行を重ねていることをニュースで見て心配していたという話をしてくれた


「そのお話を申し上げた後、景吾様は血相を変えて駆け出されて…」

「っおい斉藤…!」


斉藤さんの話を焦ったように跡部が遮った


「あ…申し訳ありません」



心配…してくれたんだね



「跡部」

「…あーん?」

「ありがとう」


私はもう一度跡部にお礼を言った









その日の夜、私たちはいつものようにベッドの端と端で寝ようとそれぞれ就寝の準備をしていた


「なんか今日は色んなことがあったね」

「元はと言えばお前が悪いんだろうが」


何となく微妙な距離を空けてお互いに向かい合って少し話をする


「…お前…」


すると私の顔をじっと見ていた跡部がふいに手を伸ばした


「え……っ!」


そして跡部の指先が私の目元をつたい、私は小さく体を震わせた


「な、なに…」

「赤くなってんぞ、ちゃんと冷やしたのか?」

「あ…」


あの時いっぱい泣いたから…


「ふっ、子供みたいに泣きじゃくってたからな」

「ぐ…だって…」


跡部は何がおかしいのか私に触れたまま小さく笑った



どくん



跡部が触れているところが熱を持つ




「あ、そうそう!お昼から気になってたんだけどさ」

「なんだ?」

「跡部…私のこと名前で呼んだよね?」

「っ」


私は恥ずかしさをごまかすついでにずっと気になっていたことを訊ねてみた


すると、跡部はカッと顔を真っ赤にした



…え?何その反応…?



「…お、俺様がお前をなんと呼ぼうが構わねえだろう」

「や…うん、いいんだけど…」


跡部は赤くなった顔を隠すように右手を顔の前にやった




え、え…?なに…かわいいんだけど

わ…なんか私まで恥ずかしくなってきた…




「ちっ…早く寝やがれ!」

「へ?わあっ」


跡部はバサッと布団を捲り布団に潜り込んでしまった


「むぅ……おやすみ」

「…ああ」



どくん


どくん





あ、れ…?

なにこの、動悸…?





『沙織!』





今までも胸がざわついたことがあった


でも今回のは…なにか違う…



胸の鼓動が、おさまらない


跡部が触れた場所から熱が引かない



チラッと向こう側に寝転ぶ跡部に目をやる





どくん





なにこれ?

───分かんないよ



flicker flicker
(揺らぐ、揺らぐ)

title by...
夜風にまたがるニルバーナ




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