あの日から私たちは家でもあまり話さなくなった
変わらないのは毎朝跡部の腕の中で目覚めるということだけ
無意識的なものらしく、それだけは変わらなかった
そのことに何故かひどく安心感を覚える自分がいる
──どうにかしてるよね
自分から距離を置いといて、
"寂しい"
だなんて──
学校でもなるべく跡部に近付かないようにしている
不思議なことに、会わないように会わないようにと意識していると、いつもより跡部を見かけてしまうもので
「はぁー…」
モヤモヤした気持ちを抱えたまま私は移動教室のため廊下を歩いていた
「邪魔なんだけど」
「っ、」
ドンッと強く肩をぶつけられてふらっと体が傾いたがなんとか立て直した
あー…やだやだ
距離を置いてもこういうのは止む気配がなくて…
さすがにこたえるなぁ
気を取り直して階段へと向かった
「あ…」
私が向かっていた階段には、跡部の姿が
しかもこっちを…見て、る?
あー…この階段を降りないと次の移動教室に行けないじゃないか
しかも周りには跡部信者であろう女子の姿がチラホラ
仕方ない、さらっと前通っちゃおう
意を決して跡部の前を横切ろうとした
が、それは叶わなかった
─なぜなら跡部に腕を掴まれたから
「な、なに?」
「お前…俺様に何か隠していないか?」
「え…」
突然の質問に私は思わず言葉をつまらせてしまう
これは、私の問題だから
女同士のいざこざに跡部を巻き込むなんてことはできない
私はゆっくり息を吸い込み言った
「…何でもない、よ?」
無理に笑顔を作るも顔が強張ってしまう
「嘘つけ。ひきつってんぞ」
跡部が私の頬に手を伸ばしかけたとき、私のすぐ側を女子の集団が横切った
「跡部さまに近付くんじゃないわよ」
あ、と思った時にはもう遅かった
突き飛ばされたんだ、と気付いた時には体は宙に浮いていて
あー…ヤバい
体がスローモーションのように階下へと吸い込まれていく
女子たちのクスクスと笑う声だけが嫌に耳につく
「沙織!」
そんな中、跡部が私を呼ぶ声がして─
私の体は温かな温もりに包まれた
「うっ…いっつ…」
地面に落下し軽い痛みが走ったものの、思ったほどの衝撃はなかった
「っ…大丈夫か?」
「え…」
それは、跡部が私を庇うように抱き締めてくれいたからで…
「跡部…っ」
慌てて跡部の体に触れるが、跡部はすぐにむくりと体を起こした
「怪我は…ないな」
私の頬に手をやり、安心したように息をつく跡部
「跡部こそ…怪我しなかった?」
「俺様がそんなヘマするわけねぇだろうが」
ふん、といつものように偉そうに言う跡部に私もほっと息をつく
「…ごめんね」
「ああ、まあこれから気を付けやがれ」
私の頭を軽く撫でる跡部
「…うん」
「さっきの話だが…無理には詮索はしねぇ。だがな、俺様に隠し事をしたら承知しねぇぞ」
ふん、とそう言って跡部は立ち上がってその場を去っていった
─その時、階段の上に鋭い視線を投げ掛けていたのに私は気付かなかった
「跡部…」
結局、巻き込んじゃったね
私が側にいたら、跡部も傷付きかねない
─それだけはどうしても嫌なんだ
中途半端に離れてもダメだ
私はある決意をして、軽く服をはらって立ち上がった
I held small decision in my mind
(小さい決意を胸に)
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