「あ」


学校に着いて鞄から教科書を取り出した私は自分のものではない教科書が紛れ込んでいるのに気付いた


「跡部のじゃん」


それは跡部の英語の教科書で、昨夜ヤツが予習をしていたもの


「何でこっちに入ってるのよ」


ふぅと小さく溜め息をつきながらも、無かったら困るだろうなぁと思い、私は跡部の教室へ向かった





ひょこっと教室を覗き込むと、窓際にヤツの姿を見つける


「跡部ー」

「あーん?」


跡部の方へ駆け寄り、ほれ、と教科書を差し出す


「…何でお前が持ってやがる」

「知らないよ、紛れ込んじゃったんじゃない?アンタ今日当たるんでしょ?」

「ああ」


跡部は頷いて教科書を受け取ろうとする


が、私はひょいとその手をかわした


「…何していやがる、早く寄越せ」


跡部は明らかに不快そうな顔をする

ふん、もうアンタのそんな顔は見慣れたし怖くなんかないね


「うふふー」

「不気味な笑い方すんじゃねえ」


ほれほれと跡部の手から逃れるように教科書を左右に振る


「てめぇ…」


跡部の声のトーンが低くなったと思った時にはもう遅かった

気が付いたらガッシリと腕を掴まれて強引に引き寄せられていた


「俺様をからかうたぁいい度胸だな…あーん?」

「ち、近い…っ!」


いきなりの近距離跡部に慌てて顔を押し退けた


「…あ」


その間にまんまと教科書を奪われてしまったようで私の手の中はからっぽに


「残念だったな」


ニヤリと不敵に笑う跡部


「むー…感謝してよねー」

「あーしてるしてる」

「うっそだぁ!誠意が感じられませーん」


私が口を尖らせると、くっと喉を鳴らして


「おら、授業始まるぞ」


と私の頭を小突いた


おでこを押さえて、ちぇっと小さく舌打ちをしながら私は跡部の教室を後にした





「ちょっと…見た?」

「なんなのあの女…跡部さまの何!?」




──そんな声に気づくこともなく



out of hearing
(声の届かないところで)


title by...
夜風にまたがるニルバーナ




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