「ん…」


翌日、いつものように目を覚ます


「あつい…?」


背中に感じる跡部の身体がいつもよりあついような気がしたが、とりあえず身仕度を整えるべくベッドを抜け出して洗面所へ向かった



着替えを終え、再び部屋に入ったとき異変を感じた


「跡部ー?」


いつもならすでに準備を終えているはずの跡部はまだ布団の中にいた


「どうしたの?寝坊とか珍しいね」


バサッと布団を捲ると、そこには虚ろな目で荒い呼吸をしている跡部が


「跡部っ!?」


慌てて跡部の額に手を置く


「あつっ…跡部、熱あるじゃんっ」

「……ちっ…」


苦しそうに舌打ちをする跡部



…多分、昨日のプールのせいだ



「ちょっと待ってね、すぐに家の人呼んでくるから…っ」


跡部の側から離れようとした私の腕を跡部が掴んだ


「行くな…」

「えっ…」


弱々しく呟き、私を制止した跡部


「でも…」

「うるせぇ…側に、いろ」

「…っ」


虚ろな目で見つめられ、私は頷くことしかできなかった


私のせいだし、こんな跡部置いて学校なんか行けないし…

斎藤さんに事実を話して学校に連絡してもらおう


そうして私は1日跡部の看病をすることになった










「よっと…」


氷水を入れた洗面器に浸したタオルを絞り、跡部の額に乗せる


「う…」


小まめにタオルを取り換えてぬるくならないように気を付ける


昼過ぎには跡部が眠っている間に台所を借りてお粥を作った


ほんとは斉藤さんに頼んだんだけど…

何か暖かい目で


『是非、沙織様がお作りください』


と言われてしまった



お粥を持って部屋へ戻ると跡部はうっすらと目を開けていた


「あ、起きた?お粥あるけど食べれる?」

「…ん」


あらま、何か素直だな


ゆっくり上体を起こした跡部はまだしんどそうだったので


「自分で食べれる?」


と訊ねた

ぼんやりとお粥を眺める跡部から返事はなくて


「…無理そうか」


仕方なく蓮華で軽くお粥をすくって息を吹き掛けて冷ますと、それを跡部の口へと運んだ

跡部は僅かに口を開き、素直にお粥を口に含み、ゆっくりと飲み込んだ

時間はかかったものの跡部お粥を完食した


「じゃあもうちょっと寝てね」


そっと跡部の上体を横たえて布団をかける


…何か子供を寝かしつけてるみたい


ふふっ、と笑みを洩らして軽く跡部の頭を撫でる


「片付けてくるから大人しく待っててねー、なんて」


そんなことを跡部に語りかけながら腰を上げると、布団から跡部の手がにゅっと伸びてきて手を掴まれた


「っ…またかよ」


跡部の方を見やるもすでに眠りに落ちていた


「片付けに行きたいんだけど…」


安心しきった顔で熟睡する跡部に話しかけても返ってくるのは寝息で


「…まあいっか」


ベッドの横の椅子に腰掛け、私はしばらく跡部の側についていた



──彼に手を握られたまま











「ん……」


跡部は眠りから覚めるとゆっくりと体を起こした


右手にぬくもりを感じそちらに目をやると、沙織自分の手を握りながらベッドに突っ伏して眠っていた


「何やってんだ…コイツ」


すやすやと気持ち良さそうに眠る沙織の後ろにはタオルや水のはられた洗面器が


コイツ…ずっと俺様についていたのか?


「幸せそうな顔で眠りやがって…」


跡部がしばらく沙織の寝顔を眺めていると、ふいにもごもごと沙織が口を開いた


「も、う…食べらんない…すぴー」

「くっ、ったく本当に色気のねぇやつだな」


跡部は喉を鳴らすと、再び規則正しい寝息をたてる沙織の髪を空いた手で弄ぶ


「本当に変わった女だな…………沙織」


ぼそりと小さく名前を呟いたその時、沙織が身動ぎをした


「う、ん…」

「よぉ、この俺様を差し置いてよく寝ていやがったな」

「んー?跡部ぇ…?」


ぼんやりとした目でしばらく跡部を見つめたあと、沙織はカッと目を見開いた


「起きて大丈夫なの!?熱はっ!?」


そしてガバッと身を乗り出して跡部の額に手を添えた


「っ、」

「…うん、もう下がったみたいだね」


よかったーと手を離して沙織は立ち上がった


「お前…ずっと側についていたのか?」


洗面器を片付ける沙織にそう問いかける


「まあねー跡部が行くなって言うしー?」

「あーん?俺様がそんなこと言うわけがないだろうバカか」

「はいはい」


沙織は軽く跡部をあしらって洗面所に向かう


「ふん…今回は礼を言っといてやる」


その後ろ姿に跡部がぶっきらぼうにそう言うと振り返ってポカンと口を開く沙織


「…まだ熱あるんじゃないの?」


そんなことを言いながらもどこか嬉しそうで


「ふん、ばーか」


跡部も密かに小さな笑みを溢した



It is surely of the heat
(それはきっと熱のせい)




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