03
財前くんと話しているところを彼の想い人である麻由先輩に見られ、誤解されてしまった
誤解を解きに、財前くんは先輩を追った
そうするように背中を押したのは私…
─やのに何でこんなに胸が苦しいんやろ?
私の視線の先には、先輩を追う財前くんの姿
さほど距離も離れていなかったためすぐに追い付けたようで、財前くんが先輩の腕を掴んで引き寄せるように自分の方を向かせた
「っ!」
それ以上見ていられなくて私はバッと顔を下に向けた
何話してるんやろ?
私のこと何て言ってるん?
ただのクラスメイト?友達?
そんな感情なんて持ってへんって言ってるん?
「あ、れ…?」
分かってる…
財前くんが麻由先輩のこと好きで好きで仕方ないことは
私が好きになった時にはもう先輩しか見てなかったことは
やのに…
何で涙が出てくるん…?
「うっ…」
自分が泣いてることを自覚してしまうと次から次へと涙が零れてくる
その時
「大丈夫か?」
頭上から私を心配する声がした
私が顔をあげることが出来ずにしばらく俯いていると、ふわっと頭に何かがかけられた
「あ…」
手に取ったそれはスポーツタオルだった
「大丈夫や、まだ使っとらへんから綺麗やで」
─タオル…使えってこと、なんかな?
その人の親切に甘えて私は泣き顔にタオルを押し付けた
すると柔らかい柔軟剤の香りがして、少し気持ちが落ち着いた
「…何があったか聞き出すんは野暮やっちゅー話や」
「…」
「せやから聞き出すことはせぇへん…そのタオル、貸したるから落ち着くまでそうしとき」
優しい声音でそう言われたかと思ったら、ふわりと優しく頭を撫でられ、私は僅かに顔を上げた
そこには人懐っこそうに優しく微笑んだ茶色い髪の男の人の姿が
「じゃあな」
ぱっと手を離してその人は片手をあげながら去っていってしまった
「あ……お礼、言われへんかったな…」
手の中にあるタオルに目をやると、刺繍された名前が目に入った
Kenya.O
「けんや、さん?」
知らへん名前…上級生かな?
タオル、ちゃんと洗って返そう
その時にさっき言われへんかったお礼も言わなな
私はタオルをぎゅっと握りしめた─
いつの間にか
涙はおさまっていた