02


「ほんまいい加減気付いて欲しいわ」

「うーん…それはもはや鈍いを通り越してるなぁ…」


財前くんの愚痴を私は苦笑いをしながら受け流す





『さっきの人のこと…好きなん?』



『せやで』






あの日を境に、私は財前くんから麻由先輩の話を聞くようになった


財前くんはテニス部マネージャーの麻由先輩に片想い中のようで、アピールするも一向に先輩は気付く気配がないという




「ほんまにどうにかしてほしいわ」


はぁーと溜め息をつきながらも先輩の話をする財前くんはどこか楽しそうで、私の胸はちくんと痛む



そう、私は先輩に片想いしている財前くんに恋心を抱いているのだ



「先輩は俺のこと男として見てないんや」

「そう、なん?」


財前くんの言葉にぴくんと私の耳が反応する


「そうやろ…あー先輩のアホー」


拗ねたように片肘をつく財前くんが可愛くて、私の胸はまたきゅぅっと締め付けられた


「財前くん、ほんまに好きなんやね…」

「………」


返事はしなくともほんのり赤く染まった財前くんの耳が彼の気持ちを物語っている



ほんまに……好きなんやね…



財前くんがこんな風に話してくれる女友達はいないだろうということは分かる


でも、女友達と好きな人は天と地ほどの差がある



「あ…」

「え?」


不意に財前くんが小さく声をあげた



彼の視線の先には─


「あり?財前くんやん」

「麻由先輩…」


先程までの話題の人物がいた


…こんなに近くで見るの初めてやけど……キレイな人…


思わず目を奪われていると


「あ、財前くん…糸屑ついてる」

「っ」


麻由先輩はすっと財前の髪に手を伸ばし、白い糸屑を手で摘まみとった


そしてそれをふっと息で飛ばし無邪気な笑みを見せた
流れるような一連の動きに思わず見入ってしまった私は我に返ると財前くんの方を向いた


「……」


財前くんは僅かに頬を染めてぶすっとした顔をしていた


けれどもその瞳は慈しむように、優しく…だけどどこか切ない光を宿していて─



決して私には向けられることのないもので─



その瞳には、先輩しか映ってへんねんな…



改めてその事実を目の当たりにし、息苦しくなる


「あ…」


そんな私と財前くんを見比べ、麻由先輩は申し訳なさそうに頭をかいた


「ごめん私邪魔してもうたみたいやね」

「…は?」

「あー、いいからいいから…何も言うな少年よ」


えっと…何か勘違いして、る?


「じゃーね!ごゆっくり〜」


先輩は唖然としている財前くんを置いて私たちの前から去っていった



「はぁー…」


そんな先輩の様子を見て財前くんは深い溜め息をついた


「財前くんっ…先輩何か勘違いして…」

「あー…せやな」


アワアワと慌てる私を尻目に財前くんは冷静そのもの


「せやなって…誤解解かなあかんやん…っ」

「弁解しても聞かへんのが先輩やからな」

「でも…」


私が食い下がると財前くんは困ったような笑みを浮かべた


「…ま、そんな先輩を好きになったんは俺やから…」

「あ……せやね…」



"好き"



財前くんの口から発せられた言葉に胸が締め付けられた


「…財前くん、追いかけて」

「…え?」


私が声と勇気を振り絞って言うと財前くんは少し驚いたように聞き返してきた


「やっぱりちゃんと誤解は解かなあかんよ」


小さいながらもまだ先輩の後ろ姿は視界に捕らえられている


「ほら、行ってき!」


財前くんの背中を強く押すと


「…分かった、行ってくるわ」


真っ直ぐに先輩の背中を見据え、財前くんが言った


「…ありがとうな」


そして私の方に少し目線を投げ掛け、財前くんは先輩の方へと駆けていった



「財前くん…」



小さく呼んだ彼の名前は、びゅうっと強く吹いた風の音にかき消されてしまった




私の好きな人には、
大切な人がいました






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