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「もー先生も人使いが荒いねんから」


放課後、帰宅しようとした私は運悪く担任の先生に雑用を押し付けられてしまった


思ったより時間がかかる仕事で、もうすでに日が傾いていた



「あ…あれ…」


軽く伸びをしながら何気なく窓の外に目をやると、テニスコート近くの水場で水を飲んでいる人物が目に入った



「謙也さん…」



それは、謙也さんだった






『泣きたい時は泣けばええ…お前には心から笑って欲しいんや』







私はあの日、謙也さんの腕の中で今まで誰にも言えずに溜め込んでいた気持ちを全て吐き出した


落ち着いて体を離した後、気恥ずかしくて謙也さんを直視できなかった私の頭を彼は優しく撫でてくれた



それ日以降も謙也さんはいつも通り接してくれて─…



そのおかげで気まずい雰囲気にならずに済んでいる





謙也さんの優しさにはいつも助けられてばっかしやなぁ





なんて考えながらしばらく見つめていると、ふいに謙也さんが顔を上げてバッチリ目が合ってしまった


謙也さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに満面の笑みで大きく両手を振ってきた


「…ふふっ」


その様子が無性にかわいく思えて、私も小さく手を振り返した




彼がテニスコートに戻っていく後ろ姿を見送って、私は教室へと足を向けた









ガラッ─


「さすがにもう誰もおらんか…って、あれ?」


夕日でオレンジ色に染まった教室の中はシンと静まり返っていたが、よく見ると誰かが机に突っ伏している


「ざ、いぜんくん?」


その席は間違えるはずもない人のもので


私はそっと財前くんに近付いた



スー…スー…



「寝てるん?」


規則正しい寝息が聞こえ、彼が寝ているんだと分かった

整ったキレイな寝顔に思わず見惚れてしまう


夕日を反射して、耳につけられたピアスがキラキラと光を放っている


「睫毛長いなぁ…」


財前くんの顔を覗き込む

その無防備な寝顔が可愛くて、自然と笑みが零れる




ちょっとぐらい…触っても、ええかな…?



恐る恐る財前くんに手を伸ばす


あと少しで触れそうになった正にその時


「う、ん…麻由せんぱ…」

「っ!」



財前くんは先輩の名前を口にした


私はとっさに伸ばした手を引っ込める




幸せそうな寝顔


…それも先輩がさせてる顔なん?





ちくっ




また胸が小さく傷んだ





「財前くん…?起きて」


もう下校時間が近付いていたため、私は財前くんを起こそうと肩を揺らした



なんて…本当は、先輩を想っているであろう財前の顔をもう見ていたくなかったから…



「ん…山本?」

「財前くん、もう下校時間やで?」


寝ぼけ眼の財前くんに私は精一杯の笑顔を向ける


「あー…ほんまや…もうこんな時間か」


部活サボってもうたわ

そう言って欠伸をする財前くん


「ふふっ、じゃあ私はもう帰るな?」

「おん、起こしてくれてありがとうな」

「…どういたしまして」




あまり一緒にいたらまた想いが募ってしまう気がして、私は逃げるように教室を後にした



どうすればこの想いを
止められるのでしょう





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