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「え、と…ここやんな?」


手にしたメモと目の前の家を見比べる



表札には"財前"の文字



うん、間違いない



ピーンポーン…



私は少し震える手でチャイムを押した


しばらくして、ガチャっとドアホン越しに音がした


「…はい」



わっ…財前くん…!?

私はてっきり親御さんが出ると思っていて身構えていたので、想定外の声の主に動揺してしまった


「あっあの!山本ですっ!」

「山本…?」


名乗ると不思議そうな声がしたので慌てて事情を説明した


「えっと…先生にプリント届けるように言われて…」

「…あぁ、わざわざ悪いな…ちょお待ってて」

「うん…」



え…?財前くんが出てくるん!?

ちょっ、ちょっと待って!

心の準備がっ


わたわたと一人で狼狽えているとガチャガチャと鍵の開く音がして、財前くんが出てきた


おでこには熱冷まシートを貼り、髪はペタンとして見るからに寝起きという格好だった





きゅん





普段とは違う無防備な姿にときめいてしまう私は重症なのだろうか…?

それにしても…1日会えなかっただけでこんなに嬉しいものなのか

財前くんを目にした途端、私の胸の鼓動は大きく高鳴っていた


「…熱もう引いた?」


少しでも彼の声を聞いていたくて、私は財前くんに問いかけた


「ん…だいぶマシやな」


そうは言いながらも目はまだ虚ろで、体調が万全でないのは明らかだった


「これ、プリント…来週までに提出やって」

「ん、おおきに」


本当はもう少し話していたいけど、財前くんのためにももう帰らなくてはならない



でも…もうちょっとだけ…



「でも、財前くんが風邪引くなんて珍しいね」

「あー…」


私がそう言うと、財前くんは何故か言葉を濁した



どうしたんやろ?



「…先輩の風邪、もろに移ったんや」

「え…?どういう、こと?」




嫌な予感に胸がざわめいた




「あー…移るようなこと、したから」


「……え」




移るようなこと、って何?



私が目を見開くと、財前くんは自重気味に小さく笑い



「病人にキスするとか、せこいよな俺」


と言った



「キ、ス…?」




財前くんと、麻由先輩が…キス?




「…悪い、ただの独り言や…忘れてくれ」

「え…?う、ん」

「わざわざ来てもろてほんまおおきに…俺はもうちょい横になるから」

「あっ、ごめんな?病人に立ち話なんかさせて」

「ん、気にしやんでええ。じゃあまた、学校で」

「うん、お大事にね…」



ぱたん



財前くんが家の中に入ってからも、私は呆然と閉まったドアをじっと見つめた



私は目の前が真っ暗になるような錯覚に陥っていた




なん、で…?



先輩との間に何があったん?





『ただの独り言や…忘れてくれ』





「忘れれる訳ないやんか…」



ずっと家の前にいるわけにもいかず、私は重い足を引きずるように財前くんの家を後にした



下を向いたら
涙が溢れてしまいそうで




無理にでも顔を上げて私は歩を進めた



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