10
「財前ー…は欠席かー?」
朝のHR、その場に財前くんの姿はなかった
財前くんがお休みなんて…珍しいな…
そっか、今日…
財前くんに会われへんのか
─…寂しいな
私は財前くんに会えないと知り、小さく肩を落とした
そしてあっという間に放課後
財前くんのいない1日は、驚くほどにつまらなかった
「山本、ちょっとええか」
帰り支度をしていると、担任の先生に声をかけられた
「はい?」
「財前に今日配布したプリント届けてほしいんやけど、頼めるか?」
「…へ?何で私なんですか?」
予想外の申し出に私は驚きを隠せない
「お前、財前と仲良えやろ?それに部活も入ってへんし…な?頼むわ」
財前くんと…仲良し…?
そう、見えるんやったら
嬉しいな
「…はい!分かりました!」
そうして私は先生からプリントと財前くんの住所を受け取った
「ん?山本やんか、今帰りか?」
「謙也さん!」
学校を出る前に偶然謙也さんに出会った
「はい、ちょっと寄るところがあるので…」
「そうなんか…あ、そういえば今日財前休みって聞いてんけど」
「あ…はい」
財前くんの名前が出て、私はピクンと思わず反応してしまう
「そうかー何や珍しいなぁ」
「そう…ですよね」
再び寂しさが胸に広がり、早く財前くんに会いたいという思いにかられる
「あの、じゃあ私はこれで…」
「おぉ、すまんかったな引き止めてしもて」
「いえ…実は財前くんにプリント届けに行かなきゃいけないんです。それじゃあ…」
軽く謙也さんに頭を下げてその場を去ろうとしたその時─
「…っ!山本っ」
「ひゃっ!?」
ぐっと謙也さんに腕を引かれた
「謙也、さん…?」
私は驚いて謙也さんの方を振り返る
「え…?」
謙也さんの目は、どこか切な気に揺れていた
「謙也さん…?」
もう一度謙也さんの名前を呼ぶと、謙也さんはハッと我に返ったように慌てて手を離した
「わ、悪い…!」
「いえ…」
そして謙也さんは何事もなかったかのようにニカッと微笑んで、
「ほら、急いでるんやろ?」
私の背を押した
「あ、はい…それじゃあ…」
謙也さん…どうしたんやろう?
私はその時の謙也さんの笑顔に違和感を覚えていた
どこか、無理をして笑っているような─…
「ほなな…財前によろしゅう」
私は胸に小さなわだかまりを残したまま、謙也さんに別れを告げた
さっきの謙也さんの様子が気になっていたが、
はやく、彼に会いたい
その気持ちが勝り、私は財前くんの家への道を急いだ
謙也さんが私の後ろ姿をじっと見つめているのにも気付かずに─…
「…どうしたんや、俺は─…」
謙也は梓の腕をつかんだ手を握りしめた