それは甘い20題 | ナノ








1限目、国語



「よーし、じゃあ白石…頭から読んでくれ」

「はい、吾輩は―…」


…いい声……


先生に当てられて背筋をピンと伸ばしてよく通る声で教科書を読み上げる蔵ノ介

私の席は蔵ノ介から少し右斜め後方で、見つめるにはちょうどいい場所

…って、み、見つめるにはって…!
なに考えてるねん!集中や集中


…それにしても…ほんと蔵ノ介の声って落ち着くなぁ

なんか…眠たくなってきた…



「…よし、もういいぞー…じゃあ続きから……」


「…茜…おい、茜」

「…んー…なにー?」


気持ちよくうつらうつらしていると隣の席の謙也が肘をつついてきた


「当たっとるで」

「え………えっ!」

「おい、聞いているのか!」

「はっ、はいぃっ!すいません!」


先生に当てられていたのに気づかなかった私は慌てて立ち上がった


「何ぼーっとしてんねん、続きからや続きから」


クスクスとクラスに笑われながらも教科書に目を落とす


「えー…っと…ど、どこからでしたっけ?」

「しっかりせえよー、もうすぐ期末テストやぞ…もうええ、座れ。代わりに忍足!続きから読んでくれ」

「は、はい!」


とばっちりを受けた謙也に手を合わせてごめん!と謝りながら私は席についた


その時、何か視線を感じて目をキョロキョロさせると、こちらを見ていた蔵ノ介と目があった


『 あ ほ 』


なっ…!

口パクでそう言われて思わず声が出そうになったが何とか言葉を飲み込んだ


私は、ふん!と顔を背けた




「今日はここまでー…続きちゃんと読んどけよー」


授業が終わり、教科書を片付けていると蔵ノ介が私の席にやって来た


「なんや?昨日の夜遅かったんか?」

「…別にいつも通り寝たけど」

「ほんまか?寝不足は健康によくあらへんで」


そう言って私の頭を優しく撫でる蔵ノ介


「……蔵ノ介の声聞いてたら気持ちよくなってもうて…」


私が白状すると驚いたように目を見開き、わずかに頬を赤らめた


「なんやねん…かわいいやっちゃな」


私たちがじっと見つめあっていると…


「いい雰囲気なってるとこ悪いけど移動教室やでー」


謙也にそう言われた


「あぁ、忘れとったわ…ほな行こか」

「うん」






2限目、化学


今日は実験室で簡単な化学反応の実験をすることになっていて、私は蔵ノ介と謙也と同じ班

蔵ノ介はひたすら「この化学反応式の無駄のない感じ…エクスタシーやわ…」とうっとりしていた





3限目、数学


「じゃあ、この問題…誰か前に出てやってくれるか?」

「数学は得意やっちゅー話や!」


意気揚々と黒板に向かい目にも止まらぬ速さで計算式を書いていく謙也


「これでどや!」

「忍足…残念やけど間違っとる」

「うそやろ!?」

「謙也ー、そこ足し算間違っとるわ」

「白石!どこや、どこが間違っとんねん!」

「もうええ、先生が直すから忍足は席に戻り」

「…数学は得意やっちゅー話や…」






4限目、体育


今日は男女ともに体育館で半面ずつ使ってバスケの授業


「へい!白石!こっちや!」

「よっしゃ!謙也シュートや!」

「おらぁぁぁあ!」


パスっ


「やったで白石ー!」

「ナイスシュートや謙也、でもフォームに無駄が多いで」

「う…」



俺達のチームの試合が終わり、水分補給をしながらふと女子の方を見るとちょうど茜が試合をしているところだった

茜はボールを巧みに操りながらゴール下に入り込み、綺麗にレイアップシュートを決めた


「へぇ…うまいもんやな」

「白石?何見てるんや…あぁ、茜か」


タオルで汗を拭っていた謙也が俺が茜を見ているのに気づいて近づいてきた


「なんや、茜バスケ経験者かいな」

「小学校の時ミニバス1年だけやっとったらしいわ」

「ほーん」


俺達が会話している間も茜は次々とボールを繋ぎ、シュートやアシストパスをしている


「なんや、茜って足キレイやな」


その時、少し離れたところからクラスの男の言葉が聞こえてきた


「俺は前から茜いいと思ってたで?ちょっとアホやけどかわええしスタイルもええよな」

「せやねんなーちょっとアホやけど意外と胸もあるよな」


…なんや人の彼女をアホ呼ばわりして
あいつをアホって言ってええんは俺だけや

ってゆーか俺の女を変な目で見るなや



俺がモヤモヤしているとちょうど試合が終わった茜が俺に気づいて駆けてきた


「蔵ノ介!見てたー?私頑張ったで!」


何も知らない茜は無邪気な笑顔をはじけさせる


「せやな、すごかったで?」


そんな茜は汗で額に髪がぴとりとくっついていて顔も火照っていて…

……ちょっとヤバないか?


さっきの奴等を窺うとまだ茜の方をチラチラ見て話をしているようだ


こいつは俺のもんや


「茜」

「ん?な……に…っ」


周りからも見えるようにぐいっと茜を抱き寄せると茜は腕の中で焦ったようにもがく


「ちょ…蔵…私汗臭いからアカン…っ!」

「そんなん全然気にならへんわ…むしろええ匂いや」


すぅっと首もとの匂いを嗅ぐと茜はますます狼狽える

首筋を伝う汗を舌ですくいあげると茜は限界だったのか勢いよく俺から離れた


「ななななっ…!なにす…!」


顔を真っ赤にして抗議する茜が愛しい

さっきの奴等は気まずそうに視線を反らせ、今は別のところを見ていた


アカンな…どんどん独占欲が強なる


「悪い悪い、ちょっとやりすぎたわ」

「ほんまやでっ!」

「…毎度のことやけど俺のこと忘れんといてくれっちゅー話や…」




5限目、英語


「If you were──…」


英語の時間、教科書を音読する先生の声に耳を傾けながら俺は肘をついて英文が書かれた黒板を眺める

茜の席が俺より前やったら茜のことずっと見てんねんけど…ってあかんあかん危ないわ俺


授業に集中しようと教科書に目を落とすと何か見られているような視線を感じた


なんや…?


視線を感じた方に目をやるとこちらを見ていた茜とぱちっと目があった

茜は慌てて目をそらしたが再びチラリとこちらを見る


絡まる視線


俺達は目をそらすことが出来ずに見つめ合った


茜も…俺と同じ風に思ってくれてるんやんな?

思わず頬を弛ませると茜も柔らかく微笑んでくれて、俺は幸福感に満たされた






06.視線




キーンコーンカーンコーン…



「今日は5限までやから終わりやー!」


よっしゃーと大きく伸びをして謙也が高速で荷物を片付けるのを横目に俺は茜の元へと向かう


「ずっと俺のこと見とったんか?」

「う…」


気まずそうに視線をさ迷わせるが俺は机に手をついてしゃがみこみ、下から茜を見上げる


「ええで?ずっと俺だけを見ててや」

「……う、ん」



茜の視線の先におるのはいつでも俺であってほしいんや



じっと見つめると茜は照れ臭そうに微笑み返してくれた






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