それは甘い20題 | ナノ








「け、謙也…お弁当食べるんもほんま速いな…」

「浪速のスピードスターやからなぁ」



お昼休み

みるみるうちに弁当を掻き込む謙也の隣でゆっくりと弁当を食べる俺と茜



「よぉ噛んで食べやな喉詰めるで?」

「はっ、余計なお世話やっちゅー話や…んぐぅっ!」

「ほら言わんこっちゃない!」

「だっ、大丈夫!?」



ご飯を掻き込んだ謙也が俺の注意も虚しく喉を詰まらせた

喉を押さえ、顔を真っ赤にさせる謙也の背中を茜がさする



「ほら、これ飲み」


俺がミネラルウォーターを差し出すと、謙也は目にも止まらぬ早さでそれを奪い取り飲み干した


「ぶはーっ!はぁ、はぁ…死ぬかと思った」


目に涙をためながら謙也は肩を大きく上下させる


「もー心配させやんといてよー」


茜は叱るように謙也の背中をばんと叩いた


「いっだぁ!」

「え?もー大袈裟やわぁ」





…もう大丈夫そうやな

二人の様子をじっと見ていた俺は謙也が大丈夫なことを確信すると、謙也にあげたミネラルウォーターの代わりを買いに行くため席をたった


「白石どこ行くん?」

「購買」

「私も着いていこかな〜」

「一緒に行きたいのは山々やけど茜は謙也見といてや」

「ん、わかったーいってらっしゃい」





白石が教室から出ていくと、白石と茜のやり取りをじっと見ていた謙也が口を開いた


「水買いに言ったんかな…悪いことしたな」

「ん?謙也は気にしやんで大丈夫やで?白石も気にしてへんやろうし」


白石が出ていった方を目を細めて見ながら茜が言うと


「そやかて申し訳ないことしたわ…そうや!」


空っぽになったペットボトルをいじくっていた謙也がぱっと顔を輝かせた



「どうしたん?」

「ええこと考えたわ…白石喜ぶでー」


不敵な笑みを浮かべながら茜の方に顔を近づける謙也


「ちょお耳貸し」

「え?うん………えぇっ!?」



茜の耳元で謙也が何か囁くと、茜は驚きの声をあげた



「なっ、なんで…」


顔を赤くして茜は渋るが


「白石のためやと思って、な?」



顔の前で両手を合わせ、白石喜ぶと思うねんけどなぁ…と謙也が言うと


「う…」


何か考え込むように黙りこんだ





そうこうしている間に白石が帰ってきた








「あっ、お帰り白石」

「あっ、ちゃうやろ!?」


ミネラルウォーターを買って教室に戻ると、笑顔で迎えてくれた茜に向かって謙也が何か言っている


「うー…だって」

「…?なんや?」

「なっ、何でもない!」



聞いても首を左右に振るだけで肝心なことは何も言わない


何や気になるな…



俺がひとりでモヤモヤしている間も謙也と茜はこそこそ何か相談事をしている


…って近ないか



俺は面白くなくてぶすっと不貞腐れていると、そんな俺に気付いたのか茜が近寄ってきた


「白石…?どうかしたん?」

「…別に何でもあらへん………謙也の話はもうええんか?」


茜の方を見ずに素っ気なく返すと


「なんやー白石ヤキモチか?」


謙也が肘で俺をつついてきた


「べ、別にそんなんちゃうわ」

「ほーん?」


謙也はニヤッと笑いながら茜に目配せをした


「え…と、ヤキモチ妬いてくれてんの?」


上目遣いで尋ねてくる茜に、俺は小さく溜め息をついた


「……妬くなって言う方が無理やろ」


正直に白状すると茜は頬を僅かに染めながら


「嬉しいよ…?……蔵ノ介」


と言った








………ん?



「い、今何て…」



初めて下の名前を呼ばれ、俺は顔に熱が集まるのを感じた

茜も顔を真っ赤に染めていて、さっきの言葉が聞き間違いでないことを物語っていた




…そ、そんなん



05.不意打ち



やわ…






「白石ぃ顔真っ赤やで」


ニヤニヤ笑う謙也を怒る気にもなれへん


「…茜、もう1回言ってくれへんか?」


俺がなんとか言葉を紡ぎ出すと、


「う……く、らのすけ?」


今度はおずおずと窺うように小さく俺の下の名前を言う茜


「っ、茜!」

「きゃっ」


俺は我慢できずに茜を抱き寄せた


「ここ教室や…って何回言わすねん!」



戸惑いながらも俺の腰に腕を渡す茜

謙也が何や言うとるけど今は茜のことしか考えたないんや、悪いな







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