それは甘い20題 | ナノ









一 大 事 や







俺、白石蔵ノ介は焦っていた

昼御飯に茜の手料理を食べて、二人でDVD見たり学校の話したりでまったり過ごしていたとこまでは良かった、その後や



──…

「えぇっ!?ちょっと待ってよ!私、お母さんおるからええと思って鍵持ってきてないで!?…は?ちょ、そんなこと言ったって急やし……お母さん!?」


ことの発端は突然茜のおかんからかかってきた電話


「ど…どうしよ、白石…」

「何かあったんか?」

「お母さん…急にお父さんと温泉行くとか言い出して…っていうか行ってもうて…鍵持ってないし、家…帰られへん」

「はぁ!?」



なんてことや
茜のご両親は今日思い立って早速温泉へと出掛けてしまったのだ



「嘘やろ…」

「自由すぎるやろ…うちの親…今夜どうしろって言うんよ」



あぁー!と頭を抱える茜に俺は、我ながら大胆な提案をしてしまった



「…うちも今日誰も帰ってこやんし…泊まるとこないんやったら泊まってくか…?」



キョトンと目を瞬かせる茜を見て、自分が言ったことを後悔する

そんなん断られるに決まって…


「…ええの?」

「せやんなやっぱり泊まりはアカンよな…って…と、泊まるんか…!?」


まさか茜がイエスと言うなんて思ってもみなかった俺は驚きを隠せなかった


「今から泊まるところ探すのもあれやし、白石がええんやったら…その…」

「お、俺は茜がええんやったら…」

「じ…じゃあ…お言葉に甘えて…」








という訳で、その後二人で近所のスーパー行って晩飯の買い物やら茜の泊まりにいるやつを買った

で、晩飯食べてテレビ見て談笑して茜が風呂に行った

あ、今ここな




ちょっと耳をすませればシャワーの音が聞こえる

俺の心臓はもうバッコバコ




今更ながら、泊まりって…もう1回言うわ泊まりって!!
そ、そういうこと…か?


俺の脳内であらぬ想像をしてしまう


ちゃうちゃう!アカンで!
俺らまだちゃんとキスもしてへんやん…



俺は自分の頭をベシッと叩いた

ちょうどその時、


「お風呂いただきましたぁ…」


と茜がおずおずとリビングへ入ってきた


「………」



茜は俺のジャージを着ていて…
そりゃあサイズはダボダボで…


…めっちゃかわええ



少し恥ずかしそうに俺の横に腰かける茜

するとふわりとシャンプーの香りがした

あ、俺と同じ匂いや…


あかん…直視できんわ



「白石もお風呂入ってきたら?」

「ん?…あぁ!せやな、風呂な」



俺は茜に言われて慌てて風呂場へ向かった










「おかえりー勝手にホットミルク作ってんけど飲む?」


風呂から上がると茜がホットミルクを淹れてくれていた


「ほんまか?おおきに」


茜からカップを受け取るときに軽く手が触れ合った


「っ!」


とっさに手を離しそうになるがなんとか持ち直し、ミルクを溢さずに済んだ


「わ、悪い」

「う…ううん、大丈夫」


茜の方を窺うと茜の頬もうっすらと赤く染まっていた


「ご、ごめんね?」

「ん…?何がや?」


急に茜に謝られ、俺は何のことか分からず聞き返した


「え…と、急に泊まることになって…」

「ああ…それはもうええやん?」


しゅんと小さくなる茜の頭をよしよしと撫でると、軽く茜がもたれ掛かってきた


「…ほんまは女友達のところに泊めてもらうべきなんやろうけど…し、白石と…一緒におりたかってん」

「っ!」



…俺はアホやな
一人で動揺して変なこと考えて…

茜は純粋に一緒におれるってことを喜んでくれてんのに…



俺は何も言わずにぐっと茜の肩を抱き寄せた

茜は恥ずかしそうにしながらも俺に体を預けてくれる


それだけで、幸福感に満たされる



「白石…私と同じ匂い…」

「…せやな」



少し体を離して茜を見つめると、茜はふっと柔らかく微笑んだ


そして俺たちは引き寄せられるように唇をそっと重ねた


初めてのキスは甘いミルクの味だった─









「じゃあ、俺はこっちで寝るから茜は俺のベッド使い」

「え…でも、悪いし…」


歯磨きを済ませ、いざ就寝という時

俺はリビングのソファーで寝ると言うと茜は顔をしかめた


「せやかて…一緒に寝るわけにはいかんやろ?」

「うー…」







で、議論の結果


「おやすみー」

「ん、おやすみ」


俺は自室の床に来客用の敷き布団を敷いて寝ることになった



部屋の電気を消し、お互いに布団に潜りこむ


俺はなんや目が覚めてなかなか寝付かれへんかった

目が暗闇にも慣れ、じっと天井を見つめる


「…白石?」


すると、茜がゴソゴソと動き声をかけてきた


「なんや?寝られへんのか?」

「ん……手、握ってくれへん?」


俺が尋ねると茜は布団の中からニュッと手を差し出してきた

白い手が暗闇の中でもはっきりと分かる


俺はぎゅっとその手を握った


「こうか…?」


「うん…ありがと」


しばらくして規則正しい寝息が聞こえてきて、茜が眠ったことが分かった


茜の手の温もりを感じながら俺も導かれるように眠りに落ちた───












「う…ん……朝か」


窓から差し込む暖かな日射しで自然と目が覚める


ぼーっとした頭で隣を見ると、俺の腕を枕にして眠る茜の姿が



…………ん?



「ん…おはよ…」


その時、茜がうっすらと目を開け、コシコシと目を擦った


「あぁ、おはよーさん………って何で一緒に寝とるんやっ!?」



俺は慌てて飛び起きる


俺が寝ていたのは床に敷いた布団

うん、何でベッドで寝てたはずの茜が同じ布団で寝てんねや?



「んー…寝惚けてたんかも…?」

「なんやそれ…」



…ほんま茜には敵わんわ

ふ、と笑みを漏らすと茜も眠気眼で微笑み返してくれた




04.おはよう



なんやええな、起きたら隣に茜がおって…一番に"おはよう"って言うてくれるなんてな──










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