それは甘い20題 | ナノ








「あっ、金ちゃんそれ…!」

「ん?なんや?」


私がたまに遊びにいくテニス部部室の扉を開けると、金ちゃんが何かをモグモグと口にしていた


それは…


「それ、蔵ノ介の…カブリエルのプロテイン入りゼリーやで?」

「んぐっ、」


慌てて制止するも時既に遅し

金ちゃんはカブトムシ用のゼリーを一袋食べきってしまっていた


「あーあ…蔵ノ介何て言うか…」


当の金ちゃんはというと、顔を真っ青にしていた


「ど、どうしよ…白石怒るんか?ワイ、怒られるんか?毒手は嫌やー!」


必死に私にすがり付いてくる姿が健気で、私はなんだか金ちゃんが可哀想に思えてきた


「なあ茜っ、お願いやー!白石には黙っといて…?」


ウルウルした目で見つめられ、私は気が付いたら頷いていた


「ほんまかっ?茜ーっ!大好きやー!」

「わぁっ、き、金ちゃん!?」


すると金ちゃんが突然抱きついてきて危うく後ろに倒れそうになった

が、背中になにか温かいものが触れ、私達は転ばずに済んだ


「…何してるん?」

「あ、蔵ノ介!」


後ろを振り向くと、私を抱きとめてくれていたのはさっきまで話に上がっていた蔵ノ介当人だった


「し、白石…っ!」


突然の蔵ノ介の登場に金ちゃんは慌てて私から離れて証拠の袋を服の中に隠した


「なあ、二人で何してたん?」


依然として私を抱きとめたままの蔵ノ介は再び訊ねてきた


「えーっと…」


チラッと金ちゃんの方を見ると、ブンブンと首を横に振っていた


「別になにもしてへんよ?」


私は金ちゃんを庇ってニコリと蔵ノ介に微笑みかけた


「…ふーん?」


ようやく私を離した蔵ノ介は私の答えに不服そうに金ちゃんと私を交互に見た


そんな蔵ノ介の様子に私達は目配せをした


「っ…ちょお、来て」

「へ?蔵っ?」


すると突然腕を引っ張られて蔵ノ介に部室から連れ出された




そして何も言わずに私を人気のない場所まで連れていった

「どうしたん?」


いつもと違う蔵ノ介の様子に私は首を傾げると振り返った蔵ノ介に強く抱き締められた


「わっ…!」

「金ちゃんと、何してたん?」


耳元で絞り出すような声でそう囁かれ、思わず私の体はぴくっと反応してしまった


「せやから…べ、つに…何もないってば…」

「嘘や、二人で内緒話してたんやろ?大好きや、なんか言われて抱きつかれて…何もないわけないやん…?」

「く、ら…苦しい」


体が離れて、私は蔵ノ介の顔をようやく正面から見た


「っ!」


蔵ノ介は酷く苦しそうな切なそうな表情をしていた


「蔵…っ」


そんな彼の表情を見て、私は衝動的に彼に抱きついた


「茜…」




ごめんな、金ちゃん…約束守られへんや




「ほんまに、何もないねん…金ちゃんがカブリエルのゼリー食べちゃって…」

「…は?」


私は蔵ノ介に事の全てを話してしまった


すると蔵ノ介ははぁーっと深いため息をついた


「蔵?」

「すまん…俺、余裕無さすぎやわ」


蔵ノ介は手で顔を覆うと、私の肩に顔を埋めてきた


「え?」

「金ちゃんと茜が仲ようしてるの見て…嫉妬してたんや」

「蔵ノ介…」

「金ちゃんにまでヤキモチやくなんてな…どんだけ茜のこと好きやねん俺…」


呻くように吐き出された気持ちに私は胸がぎゅうっと掴まれる


「蔵?ごめんね?…でも、私…蔵で頭の中いっぱいやで?他の人のことなんて考えられへんもん」

「茜…」


私も正直に自分の気持ちを言うと、蔵は静かに顔をあげて正面から私の目を見据えた


「蔵ノ介、大好き」

「俺もや」




ふ、と二人で微笑み合い、私達はそっと唇を合わせた




09.内緒話



「でも必要以上に金ちゃんに近付くの禁止な?」







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