恋心は、こころのみぞ知る

「いやぁぁぁぁあああ!!!?」


ある日の昼下がり、立海大附属中学にけたたましい悲鳴が響き渡った


誰っ!?私のお菓子を食べたのは誰っ!?


そう、事件が起こったのは昼休み

弁当を平らげた私、松浦柚希は食後のおやつを机の上に置いてトイレに行った

そして帰ってきたら…無くなっていたのだ


新製品の濃厚キャラメルミルク味のポッーが無くなっていたのだ!!!


容疑者はクラスメイトもといこのクラスを出入りした学生


…というか、


「ブンちゃんでしょぉぉぉぉ!!」


私は前科のある容疑者、丸井ブン太の姿を探す

すると奴は自分の席で、ふわふわと柔らかい赤髪を揺らしながらポリポリとポッーを食べていた


「なんだよぃ、勝手に決めつけんなって」


ブンちゃんは疑われた俺ってば可哀想ー、と一緒にご飯を食べていたであろうクラスメイトの仁王雅治に同情を求める


「ブンちゃん、後ろ」


その仁王はというと、頬杖を付いてブンちゃんの後ろ、つまりブンちゃんを見下ろすように仁王立ちをしている私を指差した


「ん?…うおっいつの間に!?」


ブンちゃんはこちらを振り向くと、驚いたようにガタッと椅子を鳴らした


「ブン太く〜ん、美味しそうなの食べてるね?何かなそれは」

「何って…新製品の濃厚キャラメルミルク味のポッーだろぃ」


頬をひくつかせながら訊ねた私に、ブンちゃんは悪びれる様子もなく新たに箱から取り出したポッーをプラプラと左右に揺らす


「見れば分かるわ!で、それはどこで手に入れたのかしら?」


私は笑顔を張り付けたままさらに容疑者を問い詰める


「神様からの贈り物?」

「どついてもいいかな?」


パチッとキレイなウインクを決めて戯れ言をぬかしたこの男

殴りたい、私すごく殴りたいヨ


「ちょ、ちょ、待てって!お前のだって決まった訳じゃねぇだろぃ!」


グッと拳を握った私から、ブンちゃんは慌てたように距離をとって仁王の後ろに隠れる


「ブンちゃん、俺を巻き込まんとってくれ」


仁王はそう言って黙々と机の上にある私のポッー(仮)をポリポリと口に運んでいる


ちょっと待たんかい!!あんたも食べてるだろう!!え、ちょ、あと1本しかないじゃん!私、涙目!


私が愛しのポッーちゃんの一大事に視線をブンちゃんから机に移したとき、ポッーの箱の底が目に入った


「…私のだって決まった訳じゃないって?よくもそんなことを言えたものだわね丸井くん」


私はゆっくりブンちゃんとの距離を縮める


「な、なんだよ」


そして怯えたように後ずさるブンちゃん


「そのポッーの箱の底を見てみなさいな」


ビシッと箱を指差すと、ブンちゃんは怪訝そうにその箱を手にした


「…げ」


まじかよぃ…そう言って頭を抱えたブンちゃん


それもそのはず箱の底にはこういう事態を見越して私の名前を書いておいたのだ


ここにブンちゃんの容疑が、確定した


「まあまあ、これでも食べて落ち着きんしゃい」


項垂れたブンちゃんに優しくポッーを差し出す仁王


「ありがとよ、仁王」


そしてそれを受け取りポリっと頬張るブンちゃん


「ちょっとそれ最後の一本…!」


私の訴えも悲しくそれはブンちゃんの口の中に消えていった


「悪ぃ悪ぃ」


そう言ってイタズラが成功したような笑みを見せるブンちゃんに、私はとうとうブチ切れた


「ブンちゃんのバカぁぁぁぁあ!食べ物の恨みは恐ろしいんだからなっ!!もう絶交してやるー!!」


わぁぁっと私は顔を覆って自分の席へ戻ると机に突っ伏した


楽しみにしてたのに…!発売が決まった時から楽しみにしてて発売日にいつもより早く家を出てコンビニはしごしたのに…!キャラメル味大好きなのに…!ブンちゃんのバカ、デブン太!


「お、おい…まあそう落ち込むなって」


私がここまで怒ると思っていなかったのだろう、ブンちゃんは狼狽えたように私の席にやって来て必死に声をかけてきた

ふん、絶対口なんか聞いてやるか

ブンちゃんはひたすら謝っていたが不貞腐れた私は昼休み中、いや、放課後までずっとそっぽを向き続けた





キーンコーンカーンコーン


HRが終わり、私が素早く荷物を片付けていると、懲りずにブンちゃんがこちらへやって来た


「なぁ、機嫌直せよ」


ブンちゃんが顔を覗き込むようにして言ってくるがフンッとそっぽを向けば、ブンちゃんはガックシと肩を落とした


「なぁって…これ、やるからさ」


そう言ってブンちゃんはガサガサと鞄の中から私の大好きな生キャラメルチョコを取り出した


「う…それは…」


ちょっと高くてたまにしか手が出ない生キャラメルチョコ、私の大好きな大好きな生キャラメルチョコ


チラリとブンちゃんに目をやると、眉を下げて窺うような上目遣いをしていた


…私と仲直りしたいときには決まってお菓子をくれるんだよなぁ


本人に自覚はないんだろうけど、ブンちゃんにとって自分のお菓子を誰かにあげるなんてそうないことで


…───私は、ブンちゃんにとって特別な友達だということで


「…許す」


ボソッとそう言うとブンちゃんはパァッと顔を明るくした


「ホントか!?」


ホッとしたように胸を撫で下ろすブンちゃん


そしていつの間にか隣に立っていた仁王が


「いつもいつも飽きずにようやるのう」


仲良しじゃなあ、と呟いて教室を出ていった




「で、お詫びと言ったらなんだけどよ」


そして私の手に生キャラメルチョコを収めたブンちゃんはガサガサとポケットから何やら紙を取り出した


「なに?」

「駅前にあるファミレスで今度新しいパフェが出来るんだぜ!そしてなんと、俺はそれの割引クーポン券を持っている。どう?一緒に行かね?」


ブンちゃんがヒラつかせたそれには見知ったファミレスのマークが入っていた


「…………いく」


そうこなくっちゃな、と嬉しそうに笑ったブンちゃんの笑顔が不覚にも可愛いな、なんて思ってしまって


「じゃあ今週の土曜日、テニス部の練習午前中だからその後一緒に行こうな」



……なんだか、デートの約束みたい


さっきまでの怒りはどこへやら、気持ちはすっかり数日後の土曜日へと向いてしまって


「じゃあまた明日な!」

「うん!練習頑張って!」


ブンちゃんが教室から出ていった後、私は鞄から手帳を取り出して今週の土曜日に『ブンちゃんとパフェ』と書き込んだ



…どうしよう、すごく楽しみなのですが


ブンちゃんにとったらただ仲のいい友達と遊ぶ感覚なんだろうけど………惚れた弱味というやつか


好きな人とのお出掛けに心が踊らない女の子なんていないはずだ


勝手にニヤけてしまう頬を引き締めて、私も自分の部活へと向かった







……例え、この想いが報われなくても


私はずっとブンちゃんが大好きなんだ








2012*11*01


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