四天お題 | ナノ





出会いはそれはもう、ベタなものだった






『きゃっ』



あれは入学してすぐのこと



移動教室の場所をまだ十分に把握しきれていなかった私は、理科室を探して早足で廊下を歩いていた…というかもはや駆けていた


そして案の定、廊下の角で人にぶつかってしまったのだ



『あいたた…』



小柄な私はその人にぶつかった勢いを殺すことが出来ずに尻餅をついてしまった



『大丈夫か?ほら、掴まり』



立ち上がろうとした私の手をその人は優しく引いて立ち上がらせてくれた



『あ、りがとうございます…』




うわ…かっこいい人…


私が慌ててお礼を言って顔をあげると、そこには目を奪われるほどに爽やかに微笑む…──白石蔵ノ介先輩がいた


それから白石先輩に何でそない急いでたん?と尋ねられた私は理科室へ向かっていた旨を話すと、ほな連れていったるわと理科室前まで私を連れていってくれた


その間に互いの名前や学年を聞いたり些細な世間話をした(学校には慣れたか、といったような。ちなみに私は新入生で白石先輩は一学年上のようだった)


そして無事に送り届けられた私が白石先輩に頭を下げたときに笑顔で言われた一言



『桜ちゃんはかわええなぁ。ほな、…これからよろしゅうな?』



何がなんだか分からないが、何故か私は白石先輩に気に入られてしまったようで



それ以来、廊下で出会ったときはもちろん酷いときは教室まで会いに来るという始末


その度に嫌がる私の頭を笑顔で優しく撫でてきて



『ちょ、ちょっと!いつも何なんですか!?』



一度そう聞いたことがあったが



『ん?桜ちゃんのことが好きやからやで?』



とこれまた爽やかな笑顔で答えられた



『…はいはい』



その時はそう言って流した


白石先輩も、えー何や素っ気ないなぁとヘラヘラ笑っていたのでどこまで本気か分かったもんじゃない






…どうせ、本気じゃない


その"好き"だって恋愛対象の"好き"じゃないに決まってる



だって…この人はきっと、モテる



教室に遊びに来るときだってクラスメイトの女子たちはチラチラと白石先輩を見て黄色い声を上げている


白石先輩はというと、そのような声に手を振って答えることもしばしばで、誰にでもその笑顔を振り撒いている


たまたま知り合ったのが私なだけで、別に特別なんかじゃない






期待なんかしちゃ、ダメ


…好きになんかなるもんか









そう自分に言い聞かせて過ごしてきたのに








「あれ?白石先輩…?」



ある日の放課後、掃除当番だった私は運悪くじゃんけんに負けて裏門の方へ大きなごみ袋を両手で運んでいた



その時、体育館の陰に見知った人影を見つけてそちらに近付いていった



「わ、私…ずっと白石さんのことが好きだったんです!」


「っ!」



告白…?


私は思わず落としてしまいそうになったごみ袋を慌てて抱えてとっさに物陰に隠れてしまった



あの子…同じクラスの…


いつも白石先輩が遊びに来たときに騒いでいた子の一人だ




どくんどくんと心臓の嫌な音が耳につく




「あー…」



白石先輩がなにか言おうと口を開いたが、私はごみ袋を足元に置いて耳を塞いだ








──嫌だ、聞きたくない









「お、桜ちゃんやんか」


「ひゃっ!」



しばらくそうしていると、いつの間にか側に来ていた白石先輩に声をかけられた



「そのごみ、捨てに行くところか?」



そう言ったかと思ったら、ひょいっとごみ袋を片手に提げて歩き始めた彼のあとを慌てて追った



「私が持ちます!」


「ええからええから」



クイッとごみ袋を引くもやんわりと制止されてしまい、私は結局彼の言葉に甘えることにした





先輩、さっきの告白…どうしたの?





なんて、告白現場に居合わせた後ろめたさもあり、聞くにも聞けなくて…



「そう言えばさっき何で耳塞いでたん?」


「えっ」



もやもやとした気持ちをもて余していると、不意にそんなことを聞かれてビクッと体が跳ねた



「もしかして…聞いてた?」


「えっと…その、ごめんなさい」



私は覗き見ていたことから謝罪の言葉を口にした



「ええよ、たまたま通りすがったんやろ?桜ちゃんが覗き見するような子とちゃうのは分かってる」





…ズルい、そんなの





「それで、その…返事は…」



私はもごもごと半ば呟くように訊ねてしまった



「ん…断ったで?」



その言葉を聞いて、私はほっと安堵の溜め息をついた



「…安心した?」


「べ、別に私には…関係ないし…」



そんな私の様子に、白石先輩はニヤッと不敵な笑みを浮かべながら私の顔を覗き込んできた







…安心?なんで私、安心なんかしてるの…?




そんなの、まるで…







「桜ちゃん…顔、赤いで?」


「あっ、赤くなんかないですから!」




クスクスと楽しそうに笑う白石先輩






告白現場に想定外に狼狽えてしまった


断ったと聞いてほっと安心してしまった





悔しい…認めたくないけど…






この体の熱を、もう誤魔化すことはできない



どうしよう好きみたい







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