「この式を変形してこっちのxに…──」
ふぅ、と苦手な数学の授業中に私は密かに溜め息をついた
私の席は窓際一番後ろと最高の席で、私はぼんやりと教室内を見渡した
すると教室の真ん中らへんにいた財前くんのピアスがキラッと光って、彼に目が止まった
財前くんって人気あるけど…
何か近寄りがたいねんなぁ
片肘をついてじっと財前くんの後ろ姿を見つめていたら、不意に彼がこちらを向いた
「っ!」
バチッと目が合ってしまい、見つめていたこともあって目を反らそうとしたものの…
なんでやろ…
目が、離されへん──
視線が絡まりあうような錯覚に陥ってしまうほど、彼の瞳に吸い寄せられた
すぐに財前くんは目を黒板に戻してしまったが、彼の口角が微かに上がっていたように思えた
どくん、どくん
あれ…?なんやろ、これ
心臓が落ち着かへん…───
その日から私はチラチラと授業中に彼を盗み見るようになったが、財前くんがあれから後ろを振り向くことはなかった
それからしばらくたったある日の放課後、私は委員会の仕事を誰もいなくなった教室で片付けていた
「んー、できたぁー!」
ようやく仕事が終わり、大きく伸びをした途端
「お疲れさん」
「ひゃわっ!」
誰かに後ろから声をかけられて変な声が出てしまった
慌てて振り向くと、クックッと小さく笑みを漏らす財前くんの姿が
わっ…そんな顔して笑うんや…
ぽーっと財前くんの笑顔に見とれていると
「めっちゃ変な声出てたで」
と言われてしまった
「ざっ、財前くんがいきなり声かけるからやん!」
何だか恥ずかしくて顔が火照る
ほんまになんなん…?これ…
訳の分からない体の熱に戸惑っていると、財前くんが真っ直ぐに私の目を見て口を開いた
「なあ、卯月…?なんや最近、俺のこと見てへんか?」
「えっ…!?そ、そう?」
いきなり核心をつかれて声が裏返る
そんな私の様子に財前くんは楽しそうに私との距離をつめた
「────俺のこと、好きなん?」
「…は?」
私が、財前くんを…すき?
どくんっ
何で?何で動悸が収まらへんの?
「ち、違う…もん」
掠れた声で辛うじて否定をしたものの
財前くんの真っ直ぐな視線に捕らわれて、私は体の芯から痺れるような感覚に包まれ、身動きが取れなくなった
甘く痺れるかなしばり