おかしい、明らかにおかしい





腕組みをしながら学校の廊下を歩く


先日の一件以来、学校での跡部の態度がおかしいのである




──何だか…避けられてるような…




家ではいつも通りなのに学校に来るとどこかよそよそしくなる跡部



私、何かしちゃったのかな



ふぅ、とため息をつくと私は目的地であった跡部の教室前で足を止めた



「よし!」



仁王立ちで気合いを入れて、さながら道場破りのように教室の扉を開ける



たのもー!



とは心の内で叫ぶことにする
恥ずかしいから





私が教室に入ってきたのに気付いた様子の跡部が僅かに目線をさ迷わせたのを私は見逃さなかった



「跡部っ、古典の教科書貸して?」



そんな些細なことにめげずに私は跡部の席までやってきて教科書の貸してほしいと頼んだ



「…ったく、また忘れたのか」



跡部は呆れ顔をするも机の中から古典の教科書を取り出して私に差し出した



「あ、ありがとー!」



よかった、貸してくれた!


そう嬉しくなって教科書を受け取ろうとした時、



「っ!」



跡部と私の指が触れ合い、跡部はバッと手を引っ込めた


それによって支えをなくした教科書はパサッと乾いた音を立てて床に落ちてしまった



「あ、とべ?」



跡部の過剰な反応に、哀しい気持ちが私の胸にじんわりとシミを作るように広がった



私の声に、跡部はハッとして私の顔を見た


でも私と目が合うと、目をそらして複雑そうな顔で小さく息を吐いた




え、なに…?




私が固まって動けなくなっていると、見かねたように教科書を拾って私の手に収めてくれた人物が



「ほら、呆けてんと早よせなチャイム鳴ってまうで?」


「忍足くん…」



ゆっくり視線を上げると、そこにはやれやれと肩をすくめて困ったような顔をした忍足くんがいた



「な?」



そう言って忍足くんは私の背中に手を添えて促した





その時だった




「侑士、その手を離せ」



跡部がガタッと立ち上がって忍足くんの手を掴んだのだ



「…何や?えらい怖い顔して」


「跡部…?」



跡部は忍足くんをさりげなく私から遠ざけてジロリと忍足くんを睨み付けている



「こいつに触るな」



跡部の少し低くなった声に私の胸がドキッと高鳴った



さっきまでは私を拒絶してたのに…何で今さら、ヤキモチやいてるの…?



「…自分が不安そうな顔さしてるからやろ?」



忍足くんは深いため息をつきながら跡部に向き合ってハッキリとそう言い捨てた



「っ!」



跡部は顔を歪めるともう一度私にチラッと目をやったが、私は目を泳がせて下を向くことしかできなかった



「沙織…」



跡部が私の名前を呟いたその時、空しくもチャイムの音が響いた



「えっ、と…チャイム鳴ったから帰るね!」



私は何か言いたげな跡部の顔を見れずにその場から駆け出した





分かんないよ、私を拒絶してるの?違うの?


…跡部、何を考えてるの──?










「はぁ…ほんまアホやな跡部は」



慌てて教室を出ていった沙織の背中を見送りながら忍足は再びため息をついた



「ちっ、うるせえ黙ってろ」



跡部は苦しそうに額を押さえると自分の席に崩れるように腰を落とした



「ほんま…何やってんねん」



明らかにすれ違っている様子の二人に忍足は三度目のため息をついた



手を触れるそれだけで


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