「私そろそろキュン死にしてしまうのではないかしら」
「ウザイ、黙れ」
ちょっとノロケてみたところ、彩花さんに一蹴されてしまった
「うぅー…だって彩花にしかこんな話できないもん」
跡部と付き合うことになり、彩花にだけ私たちの関係を全て打ち明けた
最初は驚いていたが祝福してくれて、今では唯一跡部の話をできる女友達である
「それにしても…あんたらの両思いって分かった途端のラブラブっぷりったら…聞かされる独り身の立場にもなりなさいよね」
ぶちぶち言いながら彩花は私の額を小突く
「でもまあ…よかったじゃん、順調なんだね」
文句を言いながらもやっぱり私たちの様子を気にかけてくれるあたり、本当にいい奴だなぁと思う
「うん、お陰様で幸せすぎて死にそうです」
「ウザイ、調子のんな」
そう、私たちの付き合いは順調です
学校の廊下をぶらついていると、前方にさっきまで話題に上がっていた跡部を発見した
「跡部っ!」
嬉しくなって跡部に駆け寄ると、私に気付いた跡部が小さな笑みを浮かべた
「どこかに行くのか?」
「うん、購買ー」
他愛のない話を交わしていると、私の後ろを歩いていった男子と肩が触れてしまい私の体はぐらりと傾いた
「きゃっ」
「…っと、危ねえな…」
私の体は跡部に支えられ、なんとか転ばずに済んだ
「ありが、と…」
ホッとして顔をあげると予想以上に跡部の顔が近くて一瞬息が止まってしまう
跡部も目を見開いて私を見つめていて──…
「沙織…」
掠れた声で名前を呼ばれ、熱を帯びた跡部の瞳が近付いてきたその時──
背後から賑やかな生徒たちの声が聞こえてきて、跡部はハッとしたように私から離れた
跡部が触れていた場所が熱を帯び、ドキドキと鼓動がうるさい
「跡部…?」
黙りこんでしまった跡部を窺うように服の裾を引こうとしたら
「っ、」
跡部は一歩後ろに退き、私の手は虚しくも空を掴んだ
跡部…?
それから跡部は私を見ようとせずに
「あー、じゃあそろそろ戻る」
後ろを向いてそのまま歩いていってしまった
──どうしたんだろう?
去り際の跡部の様子がいつもと違うように思えて胸が少しざわめいた
『でもまあ…よかったじゃん、順調なんだね』
……順、調?
この距離が何よりもどかしい
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