「あーん?あれは…沙織じゃねーの」



校内を我が物同然にふんぞり返って歩いていた跡部が目にしたのは、彼の大事な愛しい人だった


彼女だと認識しただけで自然と顔が綻び、暖かい気持ちが胸を満たす





…はっ、アイツを見かけただけで嬉しくなるなんざ、とんだ重症じゃねーの





跡部の今いる位置からは相手は見えなかったが、沙織は廊下の隅で誰かと話をしているようだった



「おい、沙織…」



跡部が声をかけて近付こうとしたとき



「俺、西園寺さんのことが好きです!」


「…っ!?」



耳を疑うような言葉が耳に飛び込んできた



反射的に物陰にかくれてしまった跡部




何で俺様がこんなことを…




そんなことを思いながらも、とても素通りできる場面でもなく、跡部はそっと様子を窺った




沙織は何て返事をする…?




「えっと…嬉しいんだけど、私…好きな人がいるから…」



申し訳なさそうにもハッキリと断った沙織に跡部は胸を撫で下ろした



「好きな人って、誰?」


「え!?」



ところが、告白主はそれで引き下がる様子は無いようで食い下がってきた


沙織も予想外だったのか動揺しているようで



「えっと…」



モゴモゴと言葉を濁している



「もしかして、好きな人いるっていうのって嘘?今まで告白した奴に聞いても誰か知ってる奴いなかったし」


「ちがっ…!」



何故だか自分の名前をあげない沙織を怪しんだ相手は、沙織に詰め寄った



「沙織」



そんな様子に考えるよりも先に体が動いていた跡部は、気が付けば二人の間に割り込んでいた



「あ、跡部!?」


「なっ、何で跡部さんが…」



突然の跡部の登場に二人は目を見開くが、跡部はグイッと沙織の腕を引いて



「悪いがコイツに用があるから借りるぞ」


「えっ、あっ…はい」



有無を言わさずに沙織をその場から連れ出した







「跡部?」



しばらく無言で歩いていた跡部に沙織が声をかけると、跡部はくるりと体を彼女に向けてギュッと強く抱き締めた



「あ、跡部…」



始めはたじろぐも、沙織はそっとその手を広い背中に添えた



「何でさっき俺様の名前を言わなかった?」



そして耳元で呟くようにそう言った



「…また、噂が広がって…跡部に迷惑がかかるのは嫌だったから」



沙織の口に出たことはいかにも彼女らしい答えで、跡部はフッと笑うと腕の力を緩めた



「ばーか、お前は何の心配もしなくていいんだよ」


「うん…」



跡部の言葉に、沙織は照れ笑いを浮かべながらも嬉しそうに跡部の胸に顔を埋めた












「あぁ、西園寺さんまた告白されたんかいな?なんや最近モテてるらしいなぁ」



その後、先程の出来事を忍足に話した跡部は予想外の返答に一瞬言葉を詰まらせた



「…あーん?どこのどいつだ、沙織に手を出そうとしたやつは」


「怖い怖い」



そしてジロリと忍足を睨み付けると、何で俺を睨むねんと苦笑いされた



「最近よお告白されとるみたいやで?」



さすが俺の女…という誇らしげな感情よりも、嫉妬が跡部の胸の中では勝った



「…なるほど、これは沙織が俺のものだということを分からせねえといけねえようだな…」



そして跡部は何か考え込むように顎に手をあてた



「常識はずれなことせなや」



すっかり自分の思考に入り込んだ跡部に忍足の声は届いていなかった




知ってるつもりで知らなかった


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