「西園寺さん、ちょっといいかな?」


「?うん」




ある日のお昼休みにいつものように彩花とお弁当を広げていると、隣のクラスの男子生徒に声をかけられた




「あー…ここじゃなんだし、ちょっと一緒に来てもらえる?」



どことなく落ち着きのない彼の様子に、ははーんとニヤリと不敵な笑みを浮かべる彩花と対照的に首を傾げる私



「ごめんね、ちょっと行ってくる」



彩花に一言断りを入れて席を立って声をかけてきた子に着いて教室を出た










「あのさ、俺…西園寺さんのこと、好きなんだよね」



人気のない階段に来たときに切り出された話は予想もしなかったことで



「えっ!?」



私はすっとんきょうな声を上げてしまった



「えっ、な、なんで…?」



如何せん名前も覚えていないほどあんまり話したことのない彼が、どうして私を好きだということになるのか全く検討もつかない



「や、西園寺さん最近すごく可愛くなったっていうか…目で追うようになってさ…」



照れながらもぽつりぽつりと想いを伝えてくれるその男の子


気持ちはすごく嬉しいし正直ちょっと緊張してしまうが…



「あの…気持ちはありがたいんだけど、その…私、好きな人がいて…」



私には跡部がいる



「そっか…分かった、ありがとう」



私が頭を下げると、その人は少し寂しそうな顔をしてその場を後にした





こうして人生二回目の告白をされた私だったが、それ以降どういうわけか…何度か男の子に呼び出されて告白される日が重なった





「ど、どうしたんだろう…意味が分からない」



私はその理由が分からずに、突然訪れた告白の応酬に戸惑いを隠せなかった



「はぁー、分かんないの?」



相変わらず自分のこととなると鈍いんだからと、頭を抱える私に彩花が言った



「どういうこと?」


「あんたね…最近可愛くなったって自覚ないでしょ?」


「はい?」


「前からバカで可愛かったけど、跡部さまと付き合いだしてからはもう恋する乙女!って感じだよね。一番近くにいる私が言うんだから間違いないわ」



バカとはなんだバカとは


聞き捨てならないワードに眉をしかめるも、彩花に言われたことにカァッと顔が熱くなった



「わ、私そんなに…分かりやすい?」



彩花の言うことはつまり、跡部に対する想いが滲み出てしまっているということで…


恥ずかしくて両手で火照った頬を押さえた私に、あーもう可愛いわーと彩花がギュウッと抱き付いてきた










「あれ?跡部もういないの?」



その日の放課後、無性に跡部に会いたくなった私は部活が終わるまで待てずに跡部のクラスを覗きに来ていた



「西園寺さん、跡部なら職員室寄る言うてさっさと行ってもうたで?」


「忍足くん!…そっかぁ…」



キョロキョロと教室内を見渡す私に気付いた忍足くんが事情を話してくれた



その時、



「西園寺さん、ちょっといい?」



と後ろからポンッと肩を叩かれた



「あ…」



そこには数回話したことのある男子がいて、そしてやはり少し離れた所に連れ出され、想いを告げられた





ペコペコと頭を下げて忍足くんの所に戻ると



「告白かいな?」



腕組みをして壁にもたれた忍足くんがニヤリと笑いながら聞いてきた



「う、うん…」


「ふーん…よお告白されるん?」


「えっ、いや…その…」



忍足くんの質問にモゴモゴと言葉を濁していると、忍足くんはふっと笑って私の鼻を指で軽く弾いた



「わっ」



突然のことにボッと顔に熱が集まった



なんだか今日は赤くなりっぱなしだわ…



そんなことを考えながら鼻を押さえていると忍足くんがクッと笑った



「西園寺さんはかわええからなぁ…」


「へっ!?べ、別に可愛くなんかないよ!」



テンパる私を楽しそうに喉を鳴らしながら見つめる忍足くん



「すまんすまん、西園寺さんからかったら面白いからつい意地悪してもうたわ」



か、からかわれた…!?



「もう!」



頬を膨らませてむくれてみせるも、忍足くんは動じない



「ほとんどの奴は跡部と付き合うとるってことは知らんもんな」



そして忍足くんがボソッと呟いた一言に、私は黙り込んでしまった





跡部と付き合っていることは、以前に跡部信者による執拗な嫌がらせを受けたこともあり、何となく隠すような形になっていた



ほんとは、私は跡部が大好きで、跡部は私のだって公言したい…なんて思うこともあったり





「ま、あんま気にしやんでええんちゃうか?」



考え込んだ私を見かねたのか、忍足くんはポンッと私の頭に軽く手を置いて優しく微笑んでくれた



「うん…ありがと」



へらっと笑って私は自分の教室へと戻った










「…跡部が知ったらどうするやろなぁ」



そんな沙織の後ろ姿を見送りながら忍足は誰に言うでもなく呟いたのだった



鈍いにも程がある


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