キスして(謙也)
「そうかそうか、聞いてくれるか財前くんよ」

「いきなりなんすか…俺なんも言ってないですけど」

呆れ顔の財前を軽くスルーして、なまえは話を続ける

「好きな人とぎゅーってしたいとかちゅーってしたいと思うのって普通やんな?」

「そらそうでしょ」

「ですよねー」

「で、それが何なんですか?」

「謙也が…謙也が…キスしてくれへんねん!」

は?という顔をする財前だが、なまえはいたって真剣な顔

「私ら付き合いはじめて1ヶ月半やでっ!?せやのに一向にそんな気配はなし!二人きりでもキスなしってどないよ!え?財前よ」

「ちょ、うざいっすわなまえ先輩」

「私は真剣に悩んでんねん…!」

じわじわと財前に詰め寄るなまえと後ずさる財前

「私って魅力ない…?」

終いには目をうるうるさせながら財前を見つめる

「いや…多分それは謙也くんがヘタレなだけちゃいますの?」

「そっかぁー…」

財前の失礼な発言に納得するなまえ

「そんなにしたいんやったら先輩からしちゃえばええやないですか」

「……………その手があったか!」


アホやこの人ただのアホや

ありがとー!と手をふりながら駆けていったなまえの後ろ姿を見つめながら財前は心の中で謙也に手を合わせた






翌日、なまえは勉強を教えて欲しいという名目で謙也の部屋へと来ていた


するで…!今日こそキスするんや!

「ん…なんや?今、寒気したわ」

流石の謙也も何か不穏な気を感じたようだがそのまま机に教科書を広げる

「ほんじゃ、勉強するで」

「うん!」

とりあえず普通に勉強を始める二人



しばらくして、数学をしていたなまえは計算ミスをし、消ゴムを求めて手をのばした

するとその手は、同じように消ゴムを取ろうとしていた謙也の手と触れあった

「っ!悪い…」

謙也は慌てたように手を離そうとしたがなまえは素早く謙也の指をきゅっと掴んだ

「…なまえ?」

「謙也…」

そして躊躇う謙也を見上げるように見つめる

そのまま顔を寄せ─…






「わーっ!?」

寸でのところで謙也に引き剥がされた

「何すんのよ!」

「それはこっちの台詞や!いきなりなんやねんっ」


なんなん…!?普通拒みますか!?

あーそうですか、そんなに私とキスするのが嫌やねんな


「…帰る」

「は?ちょ、待てや…」


帰ると言ったなまえの腕を謙也は慌てて掴むがパッと振り払われる

「謙也は…私のこと、好きなん?」


なまえは謙也に背を向けたまま絞り出すように呟いた

「なっ…い、今さらなんやねん…」

「だって…だって…謙也、全然キスしてくれへんねんもん」

「…は?」

「私は謙也とキスしたい、いっぱいしたい…だって謙也のことめっちゃ好きやねんもん」


あー…なんか泣けてきた


なまえの目にじわりと涙が浮かぶ


「なまえ…」

「やから頑張ったのに…謙也は私となんかキスしたないんやろ!?」


謙也の方に振り向き、ぽかぽかと謙也の胸を叩く
泣き顔を見られないように顔を伏せながら


「っ!んなわけあるか!したいに決まってるやろ!」

「ほらやっぱり嫌なんやん!………って…え?なんて言った…?」


思わず謙也の顔を見上げるとそこにはこれでもかというぐらい真っ赤な顔をした謙也


「あほ…こんなカッコ悪いこと言わすなや…」

「だって…」

「いや、違う…俺が悪いんや」


謙也は自嘲ぎみにくしゃっと自分の髪をかきあげる


「俺…お前のことが好きすぎて……あんま近くにおりすぎたらめっちゃ顔赤なってもうて…そんなダサい顔好きなやつに見られたくないやんか」

「謙也…」

「せやのに…あーもう!アカンわ…カッコ悪すぎや」


片手で真っ赤になった顔を隠すようにする謙也

なまえはそんな謙也が無性に愛しく思えて仕方がなかった

「謙也」

「なんや?あんま見んなよ」

「やだ…もっと見して?」

「おまっ…人の話聞いてたんか!?」

「だって、そんなに赤くなるぐらい私のこと好きでいてくれてるってことやろ?見たいよ…」

顔を覆っている謙也の手を掴むと謙也はためらいがちに手を下ろした


「謙也…キスして?」

「なまえ……」


そっと目を閉じると、謙也の顔が近づく気配がして…

柔らかい唇の感触がした


目を開けるとそこには至近距離で見つめる謙也の赤く染まった顔が


「謙也…真っ赤」

「…うるさいわ」



二人はふっと微笑み合い、どちらからともなく再び唇を寄せた───…








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