真知乃さま/白石甘


「あれ?蔵ノ介…?」


ポカポカ陽気の日曜日の昼下がり


私が一人で街を歩いていると、前方にそこにはいるはずのない彼氏である白石蔵ノ介の姿が





『ね、蔵ノ介!日曜日久しぶりに出掛けへん?』

『あーすまん、その日は…あれや、親戚の家行くことになってんねん』





数日前の会話を思い出し、蔵ノ介の様子を影から見守っていると


「くーちゃん、こっちこっち」


キレイな女性が蔵ノ介の腕を引いた



くくくくーちゃん!?

それって蔵ノ介のこと言ってんの!?



「くーちゃんって言わんでや」


蔵ノ介も困ったように返すも腕を払う様子はない





ってゆーかさ、


彼女の私の誘いを断っといて他の女とデートですか



これはアレですか、浮気ってやつですか




私は二人の様子を見ていられなくて踵を返すと駅まで全力で駆け抜けた












───翌日


「なまえ、おはよーさん」

「…………」


私が席についているといつものように蔵ノ介が近付いてきて声をかけてきたが、ツーンと無視をする


「なまえー?」


どうかしたんか?と蔵ノ介は私の机の前にしゃがみ、顎を机に乗せて見上げてくる



……ぅぐ


そんな可愛いことするなよ!



お前は今怒ってるんだなまえ蔵ノ介の愛しさに惑わされるな!



「べーつにぃー?」


私はさらに顔を背けて返事をする


「おー!白石になまえ、おはよーさん」

「あ、謙也おはよー」


その時、教室に駆け込んできた謙也にいつものように挨拶をすると蔵ノ介は不服そうに声をあげた


「何で謙也には返事すんのに俺のは無視するんや?」

「さあ?自分の胸に手を当ててよーく考えてみたらどうですか、白石クン?」

「白石クン…!?」


名前で呼ばれなかったことで私が怒っているということをようやく察したようで、とたんにオロオロと狼狽えだした


「お、俺なんかしたか?」


まるでワンコが飼い主に怒られてしゅんと耳を垂らすように肩を落とした蔵ノ介


「…昨日いい天気でしたね」

「昨日…?お、おん…せやな」

「絶好のデート日和でしたねー」

「せやな…って、ああー!分かったで、俺とデートできんかったから拗ねてるんやろ?かわええなぁー」


まあそれもあるけど問題はそこじゃない


勝手に納得してホッとしたのか私の頭をよしよしと撫でてきた


「ちゃうわアホ」



あの女の人の触った手で私に触れやんといてよ


パシッと蔵ノ介の手を払うと、彼は驚いたように目を見開いた


「…昨日は親戚のお家行ってたんやんな?」


そのまま蔵ノ介の顔を見ずにそう言う


「っあ…せ、せや?」


はぁ…ほんまに蔵ノ介は嘘つかれへん性分やんな


「私は一人で買い物しててん」

「そ、そうなん?」

「そうや?くーちゃんもせやったんと違うん?」


私が"くーちゃん"と言うと蔵ノ介は今までになく動揺した


「なっななな何でその呼び方…っ」

「…さあ、何でやろね?…何で、何でくーちゃんは彼女の誘い断って他の女と歩いてたんやろね?」

「っ!み、見て…っ」


サッと顔を青くした蔵ノ介




──言い訳しやんねんな


蔵ノ介の様子が私をある結論に導いた



「他に好きな人おるんやったらそう言えばいいやん」

「ち、ちゃうねん…!アイツは─」



アイツ?ふーん、えらい親しげなんですね



「─もういい、私よりその人の方がいいんやろ?……っ、もう、いい」





───あかん


怒ってるように装ってへんと、溢れてまう





私は俯いたまま勢いよく立ち上がり教室を飛び出した




「なまえ!ちょお待ちや!」


後ろからバタバタと蔵ノ介が追いかけてくる気配がするが私は構わず廊下を駆け抜ける








ダーッと階段を駆け上がり、屋上のドアに手を伸ばそうとしたその時、


「待てって言うてるやろ」


はぁはぁと肩で息をする蔵ノ介にドアノブを掴む手を掴まれた


「…離してよ」



声が震える


強気でいないと保てなかった不安が、悲しさが、胸に溢れてきて止まらない



「なまえ…」


蔵ノ介は私の肩を掴んで自分の方に向かせようとする


「やっ、離して…っ!」


顔を見られたくなくてその手を払おうとすると─


「っ、離さへん!」


強引に対面させられ泣き顔を見られたかと思った途端、胸に抱き寄せられた


「俺の知らんところで勝手に傷つくなや…勝手に泣くなや…他の女?何やねんそれ。俺はお前しか見えてへん、なまえ以外の女なんか目にも入らんわ」


息がするのも苦しいほど強く強く抱き締められ、




あぁ…気持ちは離れてへんのや…




と全身で感じ、抑えていた涙が一気に溢れた



「だっ、て…ひっく…だって!私見てんもん、蔵が…っキレイな女の人と歩いてるの」


嗚咽混じりに気持ちをぶつけるとそれに応えるように抱き締め直される


「確かに昨日はそいつと買い物行ってた」

「っ!やっぱりそうなんやんっ…バカぁ…っく」

「アホ、最後までちゃんと聞き…アイツはな、俺の姉貴や」

「…………え?」


蔵ノ介から発せられた言葉に思わず目をみはる


「せやから、姉貴や」

「お、姉さん?」

「せや?」

「蔵ノ介、二人兄妹やなかったん?」

「あれ、言ってへんかったか?」


キョトンとした声を出す蔵ノ介に、聞いてないと軽く頭突きをする


「悪かったって…買い物に付き添ってもらってたんや」


よしよしと宥めるように背中をさする蔵ノ介


「…買い物やったら私が付き添うやん」


ちょっと拗ねてみせると、蔵ノ介はモゴモゴと言いにくそうに言った


「あー…なまえやったらアカンねん」

「なんでよ」


蔵ノ介の腕の中でぶすっと彼を見上げる


「…なまえ、もしかして今日が何の日か…覚えてへんのか?」


すると蔵ノ介は困ったような笑みを見せた


「今日ー?…うー、ん?」


私が首を傾げると蔵ノ介はヤレヤレと言ったように片手を私から離してズボンの後ろポケットを探った


「手出して?」


言われるがまま片手を差し出すと、小さな包みが乗せられた


「な、にこれ?」


突然のプレゼントに戸惑い、真相を蔵ノ介に求めると蔵ノ介はふぅ、と小さく息をついた


「なまえ、今日誕生日やん」

「…………………え?」


ポカンと口を開けるとゴツンと蔵ノ介に額をぶつけられた



昨日の衝撃が大きすぎてすっかり忘れてた



「ほら、開けて?」


促されてガサガサと包みを開くと、そこには華奢なピンキーリングが入っていた


「かわいい…」

「指、貸して」


じっとピンキーリングを見つめているとパッとそれを蔵ノ介に奪われ、グイッと手を引かれた


そして左手の小指にそっとピンキーリングをつけてくれた


「蔵…っ」

「ここは、もうちょっと待ってな?」



そう言って蔵ノ介が唇を寄せたのは左手の薬指で



その意味を悟り何故だか胸がつまって涙が零れた



「泣かんといてや…」


蔵ノ介はそっと私の頬に手を添え、指で涙を拭ってくれる


「これは嬉し涙やもん…っ」



そう言って私は蔵ノ介の胸に飛び込んだ







ごめん


勝手に疑って、勝手に嫉妬して、勝手に不安になってごめん





でもね?




─それだけ蔵ノ介のことが大好きやからなんよ?





これはもう少し涙が落ち着いてから言うことにして…




今は蔵ノ介の腕の中で彼の温もりを感じていよう─…




「なまえ、誕生日おめでとう」

「…ありがとう」















───────────
真知乃さまリクエストの白石甘で浮気を勘違いされて必死に弁解する蔵りん(^ω^)
あれ?必死に弁解…あれ?
私ちゃんとリクエストに添えない…( ;∀;)←え
ヒロインちゃんをちょっと強気にしたかったのだよ…あれ?←
苦情感想等ありましたらお願いします(;>_<;)

リクエストあざました!


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