七葵さま/謙也甘


「やった!窓際一番後ろ!」


席替えのくじを引いた私は大きくガッツポーズをした



ウキウキと自分の机をこれから1ヶ月過ごす場所に移動させる


席に着くとすぐにガタッと隣で机を下ろす音がしてお隣さんは誰かしらとそちらを見やる


「お、なんやなまえと隣か。よろしくやで」

「謙也やん!よろしくー」




ま じ で か




窓際一番後ろな上に、まさか、まさか想い人である謙也が隣の席だなんて



私くじ運良すぎ



今度は誰にも見られないように机の影で小さくガッツポーズをした










「なまえ」


次の日の古典の時間、私は不意に謙也に声をかけられたので


「なに?」


謙也の方を見ると謙也は何故か私を拝んでいた


「教科書忘れてもうたみたいやねん、悪いけど見してくれへんか?」

「ん、いいよー」


ガタッと謙也の机と私の机をくっつけ、真ん中に教科書を開く


平常心を装ってはいたが心の中の私はもう大騒ぎ


「すまんな、おおきに」

「どういたしまして」


ちょうどその時先生が入ってきて授業が始まった




近い距離で同じ教科書を覗き込む


チラッと横目で謙也を見るとふわふわしたブリーチがかった髪が思ったより近くにあり、心臓が高鳴る



…心臓の音、聞こえてへんかったらいいけど



そっと頬に手をやると、そこはわずかに熱を持っていた









その日以降も、謙也は古典の時間に毎度教科書を忘れてきた


「いつもすまんな」


ガタガタと机を寄せながら謝る謙也


「古典なんかほぼ毎日あるのになんで忘れるんよ〜」


私も机を動かしながら困ったように笑ってみせる


─本当は嬉しいねんけどね


「…なんでやろなぁ」


その時浮き足立っていた私は片肘をついていた謙也が優しい眼差しで私を見ていたことに気付かなかった





授業中、ページをめくろうと一緒に見ていた教科書に手を伸ばすと、同じ目的で手を伸ばしていた謙也の手と触れあった


「っ!ご、ごめっ」


私は慌てて手を引っ込めた


「悪い、めくるで?」

「あ、うん…」


ドキドキと触れた部分を押さえる私と対照的に、謙也は全く気にしていないという様に教科書のページをめくった



意識してるんは、私だけなんや…



その事実に勝手にしょぼくれる


謙也はというと黒板に集中している様子で、真っ直ぐ前を向いていた



…あれ?


その謙也の耳はほのかに赤らんでいて


「謙也?耳、赤いよ?」


おずおずとそう言うと


「なっ、あっ赤くなんかないっちゅー話やっ」


と慌てて耳を押さえてそっぽを向いた



なに、それ?


…謙也もドキドキしてくれてんの?



私は謙也にバレないように小さく笑みを漏らす



─勝手に都合よく解釈しておこう


いつも教科書見せてあげてるねんから、これぐらいいいやんな?










その後も相変わらず謙也は古典の教科書を忘れてきた


「謙也、古典の教科書なくしたん?」

「やっ、家にあんねんけど…」



それにしても忘れすぎ



クスクス笑いながらも、すでに私は毎回古典の時間が楽しみで仕方なくなっていた











ある日の放課後、私は残って学級日誌を書いていた


「ん、よし!できたっ!」


ようやく書き終えた私は、早く職員室に行こうと勢いよく立ち上がってドアに向かおうとした



─ドンッガタタッ



「あー!」


勢い余って謙也の机を倒してしまった
机の中身がぶちまけられ、慌ててかき集める


「…ん?」


すると私の目に入ったのは謙也が毎度毎度忘れてきていたはずの古典の教科書


「なんで?」


手に取ってみると、名前が書かれていたのでやはり謙也のもので


「あれ、なまえまだ残っとったんか?なにして─…っ!」


ちょうどその時、タイミングよく委員会終わりの謙也が教室に入ってきた


私の方に歩み寄り話しかけてくるが、私の手に握られたものを目にしてわずかにたじろいだ


「謙也…教科書、家じゃなかったん?」


佇む謙也を見上げるように窺うと、謙也の顔は教室に差し込む夕日のせいではないのが明らかなほど、真っ赤に染まっていて─



「す、すまんっ」

「えっ、ちょ…っ謙也!」


腕で赤くなった顔を隠すようにしながら謙也は教室を駆け出した




…なんでそんなに真っ赤になってんの?


…なんであるのに忘れたなんて嘘ついて私の教科書見てたん?



…なんで何も言ってくれへんの?



「ズルいよ…」


ドキドキと高鳴る胸にぎゅっと教科書を抱いて私はしばらくその場で動けずにいた












翌日以降、謙也はどこか気まずそうに私と必要以上の会話を避けるようになった


これまでずっと見せていた古典も自分の教科書で授業を受けている


かといって私からもことの真意を聞く勇気はなく、そのまま数日が過ぎた





───このままじゃダメだ



私は古典の教科書を机の中に突っ込んだ


「け、謙也?」

「な、なんや?」


私が声をかけると謙也は少し驚いたようにこちらを見た


「古典の教科書忘れてもうたから見せて?」

「っ、…おん、ええで」


ぎこちなくガタガタと机を寄せる

「ありがと」


授業が始まり謙也はノートに目を落とす


私はそんな謙也に小さな声で話しかけた


「ねぇ、なんでほんまは持ってたのに私の教科書見てたん?」

「っ、それは…」


いきなり核心をついた質問に謙也がたじろぐ


「…謙也?」

「な、なんや?」


そんな謙也の方を見ずに私は下を向いて絞り出すように訊ねた


「私…都合よく解釈してもええんかな?」

「…へ?」


すると謙也は虚をつかれたような間抜けた声を出した


「せやから…」


あーダメだ、これ以上のことは喉につかえて声にすることができない


ゆっくりと謙也の方を向き、真っ直ぐにその目を見つめる


謙也の頬はほんのり赤らんでいて、きっとそれは私も同じなんだろうなぁ、なんて思ったり



私が何も発せずにいると、謙也がためらいがちに口を開いた


「…都合よくって、どんな解釈なんや?」


ばか、それが言えないから黙りこんじゃってるんでしょ


「……謙也ズルいよ」

「…え?」

「なんで肝心なこと言ってくれへんの?私…私…」



あ、やばい

気持ちが溢れてしまいそう


慌てて唇を噛み締めると、謙也の瞳が揺れ、


「っ、すまん…俺…っ」

「っ!」


突然机の上の手をきゅっと握られた


「…なまえと少しでも近づきたかったんや…でも俺ヘタレやからあんなアホみたいなやり方しか思い付かんくて…それがバレてほんま俺ダサいわって思ったらなんか、なまえと顔合わせれんくて…」

「謙也…」

「好きなんや、ずっとお前のことが好きやったんや」


ずっと期待はしていたけど確信が持てずに待ち焦がれていた言葉


その言葉にポロっと目から一粒涙が零れた


「嬉しい…私も好き」

「ほ、ほんまか?俺、こんなんやけど…ええんか?」


嬉しそうしながらもこんなことを聞いてくる謙也に思わず笑みが零れた


ほんまに不器用でバカなんだから



でも─…


「そんな謙也が好きなんやもん」


そう言うと今度こそ謙也は満面の笑みを浮かべた


二人で回りにバレないように小さく笑い合う



そして、謙也がそっと教科書を顔に寄せ、真剣な眼差しで見つめてきた


私が導かれるように目を閉じると柔らかい感触が唇に触れた



一度離して見つめ合い再びどちらからともなく唇を重ねた




──私たちを引き合わせてくれた古典の教科書に隠れて何回も触れるだけのキスを繰り返した











─────────────
七葵さまリクエスト謙也甘でした!
…あ、れ?甘…い?
ぎゃぼぉぉぉぉぉ(^O^三^O^)
なぜこうなった…!
甘甘〜な感じで!とのことだったのに…!
なんなのこの子たち…( ;∀;)
ってか授業中に何やってんねん←
感想または苦情受け付けております( ;∀;)
リクエストあざました!







☆おまけ☆

「なまえ窓際一番後ろなんか…お、俺の隣やん」
「っ!ほんまか白石!」
「何やねん謙也。ほら見てみ」
「ほ、ほんまや…頼む!俺と席変わってくれ!一生のお願いやぁぁあ!」
実はこんなやりとりがあったりなかったり


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