空を仰ぐと、雲1つない青空が視界いっぱいに広がる


鼻からすぅーっと深く息を吸い込み、俺はゆっくりと周囲を見渡した



俺が足を踏み入れたのは病院の中庭で、患者の人たちや見舞い客たちがそれぞれの時間を過ごしていた



俺は静かに中庭の中心にあるベンチに腰掛けて、そっと目を閉じる





「お隣いいですか?」



しばらくそうしていると、聞き焦がれた声が耳に届いた



「…もちろん」



ゆっくり目を開けると、そこには──



「ありがとう、蔵ノ介」



柔らかく微笑む綾乃の姿があった


綾乃は俺の隣に腰掛けるときゅっと俺の手を握った



「術後の経過はどや?」



俺もその手を握り返すと綾乃はニコッと笑みを深めた



「うん、順調やよ」


「そっか…よかった」





1週間前、綾乃の手術は無事に成功した


しばらくは病室を出ることを許されていなかったが、ようやく病院内を自由に動けるようになったのだ



「私、ちゃんと会いに来たよ?」



綾乃はふふーと得意気に言った




『手術成功させて…また俺に会いに来てくれ。俺が待ってる、綾乃が戻ってくるんを待ってる…』




「おん、待ってたで…」



そんな綾乃の頭をふわっと撫でると、綾乃は気持ち良さそうに目を細めた



「あのね?蔵ノ介さ、私の手術が成功したら言いたいことあるって言ってたやん?」



そして綾乃は静かに話し始めた



「…せや」



俺は、綾乃に伝えなあかんことがある



「綾乃?俺な──…?」


「待って」


「…え?」



俺が綾乃に向かい合って口を開いたその時、綾乃に言葉を遮られた



「私もね?手術が終わったら蔵ノ介に言いたいことがあってんけど…私から先に言ってもええかな?」


「あ、ああ…ええで?」



そう言うと綾乃は静かに立ち上がって数歩歩くと、俺の方をくるりと振り向いた







「蔵ノ介?───…私と、もう一度…恋をしよう?」







綾乃は少し泣きそうな…けれども優しくて柔らかい、そんな笑みを浮かべていた



あの日も…こんな顔をしてたんやろか


逆光で表情が分からなかったあの日の綾乃





『白石…私と恋をしよう?』





あの一言で始まった俺たちの関係


互いの気持ちもはっきりとしないまま、その気持ちを知るために続けた恋人という関係





「…おん」



俺も立ち上がって綾乃の前に立つと、そっと彼女の頬に手を添えた



「──綾乃、好きやで」



真っ直ぐに綾乃の目を見つめて、ずっと伝えたやったことを口にすると、綾乃は瞳を揺らした



「私も…蔵ノ介が、好き」



"好き"と口にした瞬間、ポロっと綾乃の目から涙が溢れた



「蔵ノ介っ、すき…うっ」



ポロポロと涙を溢しながら何度も何度も気持ちを溢れさせる綾乃の震える体を俺は優しく抱き締めた



そして綾乃の顎に手を添えると、綾乃は静かに瞳を閉じて───




涙で濡れる綾乃の唇に、触れるだけのキスをした










ありがとう、恋を教えてくれて



ありがとう、誰かを愛しく思う気持ちを教えてくれて





もう一度…ここから始めよう


二人で、正真正銘の恋人として…───




もう一度君と恋を






2012*08*10 完結


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