「おはよーさん」
朝練を終えて教室に入ると俺はある違和感に気付いた
「あれ?綾乃まだなんか…?」
『あっ、蔵ノ介ー!おはよー!』
いつもであれば、俺が教室に入るとすぐに綾乃の明るい声が降ってくる
しかし、今日は教室を見渡しても綾乃の姿は見当たらない
もしかしたらメールが入っているかもしれないと思い携帯を開くが、新着メールはなかった
「佐藤ー…は欠席やったな」
HRが始まり、担任の先生が出席をとる
先生には連絡がいっているようで、名簿に欠席のチェックをつける
綾乃が休みなんて珍しいな…
そういや昨日体育見学してたし、熱でも出たんかな?
後でメール入れとくか…
俺は先生の連絡事項をボーッと聞きながら綾乃のことばかり考えていた
「返事、来やんな…」
休み時間のたびにメールをチェックするも、綾乃からの返信はなかった
結局その日、綾乃と連絡がつくことはなかった
──…綾乃がいない学校は、なんだか色褪せて感じられた
そして次の日も、その次の日も、綾乃は学校に来なかった
1日に何度もセンターにメールを問い合わせるが、相変わらず綾乃からの連絡はなかった
綾乃、どないしたんや?
何で連絡つかへんのや?
そんなに、体調悪いんか…─?
日に日に不安ばかりが募っていく
綾乃…俺、
お前に…──会いたい
『白石…私と恋をしよう?』
自分の中で、こんなにも綾乃の存在が大きくなっていたなんて…今まで気付かなかった
綾乃と会わない日が1週間続き、俺はいてもたってもいられずに放課後になると職員室へと向かった
「先生…!ちょお聞きたいことあるんですけど!」
「おおー何や白石?血相変えて…」
担任の先生の元に行くと、先生は驚いたように俺を見た
「綾乃…佐藤さん、どうかしたんですか?」
「佐藤か…」
俺が綾乃の名前を出すと、先生は僅かに目を伏せた
「何かあったんですか?メールしても返事あらへんし、連絡つかないんですけど…!」
身を乗り出して問い詰めるも
「個人的な事情やからな…言われへんのや」
と先生は言葉を濁すばかりで
「お願いします!綾乃は俺にとって大事な存在なんや!」
思わず机に強く手をついて声を荒げてしまった
すると、俺の懸命さが伝わったのか先生は頭を軽く押さえながら重い口を開いた
「佐藤は今な…ちょっと休学しとるんや」
休学…─?
「何でですか?理由は?」
さらに問い詰めると、誰にも言うなと釘をさしてから先生は言った
「アイツな…でっかい手術するんや」
次の日、俺は電車で綾乃が入院しているという病院を目指していた
『手術…?綾乃、病気かなんかですか?』
『おん…本人に口止めされてるからこれ以上は言われへんけどな…』
『…っ病院は、病院はどこですか!?』
『…───〇〇病院や』
なあ、綾乃…
何で病気のこと俺に言うてくれへんかったんや?
何でいきなり俺の前からおらんくなったんや?
聞きたいことはたくさんある
せやけど今は───…
綾乃の顔を少しでも早く、見たいんや
2012*08*07