『白石…私と恋をしよう?』
あの日から俺達は付き合い始めた
正直なところ綾乃のことが好きなのかと聞かれても、すぐには頷くことはできない
だが、俺はあの時どうしてか、
…首を縦に振っていたのだ
付き合うと言ってもお互いに恋愛をしたことがないため、とりあえず恋人らしいことを1つずつやっていこうということになった
という訳で、まずは毎日一緒に帰ることにした
部活に所属していない綾乃は俺の部活が終わる時間を見計らい、毎日正門の辺りで待っている
俺は今日も部活を終えると、手早く帰り支度をして正門へと急いだ
「あっ、白石!お疲れさまー!」
綾乃はいつも俺の姿をとらえると、パァッと顔を明るくして俺の元へと駆けてくる
そんな綾乃の姿に俺の顔も自然とほころぶ
「おおきに、ほな帰ろか?」
「うん!」
そして俺達は隣に並んで正門をくぐった
学校での出来事や昨日のテレビの話など、他愛のない話で笑い合う
だが不意に、綾乃が考え込むように口をつむんでしまった
「綾乃?」
どうしたのかと窺うと、綾乃は仄かに顔を赤く染めて俺を見上げてきた
「えっと…手、繋がへん…?」
「え…」
少し恥ずかしそうに眉を下げる綾乃の姿に──
─…僅かに胸がざわめいた
「ほ、ほらっ!手繋いで帰るってさ、恋人っぽいやん?せやから…その…」
次第にしおしおと頭を垂らしていく綾乃の様子がおかしくて、ついつい笑みが零れてしまう
「…せやな」
ほら、と綾乃に手を差し出すと、彼女は遠慮がちにも嬉しそうに俺の手をきゅっと握った
そのまましばらく互いに別の方を見ながらゆっくりと歩を進める
「なんか…照れるね」
沈黙を破ったのは綾乃で、俺に向かって恥ずかしそうに微笑んだ
「せやな…なんか…─」
──調子狂うわ
今までただの大事な友達としてしか考えたことがなかった綾乃が恥じらいながら俺の手を握っている
そのことが何だかむず痒い
ポツリポツリと会話を交わしながらも心の奥がほんのり暖まるような心地がしていた
綾乃の家に着き、俺達は自然と手を離した
「何かちょっとずつ恋人っぽくなってきたね」
家に入る前に、えへへと綾乃が小さく笑った
「せやな、これから…もっと近付いていけたらええな」
「うん…」
せやね…もっと、近く…
俺が言った言葉に少し考え込むように綾乃はブツブツと何やら呟いた
なんや?と首を傾げて綾乃の出方を待つ
そして意を決したようにパッと顔を上げると
「じゃあ、また明日…く、蔵ノ介!」
と言って家の中へと駆け込んでいってしまい
「っ!お、おん…また明日」
俺も咄嗟に綾乃の後ろ姿に声をかけた
突然下の名前で呼ばれ、俺の心臓は不覚にも早鐘を打っていて…
今まで経験したことのない熱が体内に満ち溢れ、綾乃の温もりの離れた手は何だか物足りなくて…寂しさを感じた──…
2012*07*28