「ねえ、白石ってモテるやんな?」
日も傾きかけ、教室に夕日が射し込む中、俺と綾乃の二人は保健委員の仕事を片付けていた
そんな中、綾乃が何の前触れもなく聞いてきたことに俺は思わず作業する手を止めた
「……いきなり何や?別に普通やと思うけど?」
「あーそういう謙遜はいいから…でさ、付き合ったことある?」
俺が素直な気持ちを述べると綾乃は、はいはいと手をプラプラ振ってさらに問いかけてきた
「ないなぁ」
これもまた正直に答えると綾乃は驚いたように目を見開いた
「え!そうなん?意外かもっ」
「なんでやねん」
俺は綾乃の質問の意図が分からずに、やや呆れぎみに頬杖をついた
そっか…ないんか…
と一人でブツブツ呟いていたかと思うと
「じゃあさ、白石は…恋、したことある?」
綾乃は今度はおずおずと、こんなことを聞いてきた
「…は?」
「だからー、恋したことある?って聞いてんのー」
少し気まずそうに目を反らしながらも再度訊ねる綾乃
「あー…ない、かな」
俺は少し考えて、思い当たることが無かったため首を横に振った
「そっか……実は私も無いねん」
「そうなん?」
俺の返事に何か考え込むように視線を落とした綾乃が言ったことに俺は正直なところ驚いた
俺は綾乃とは中1の時からずっと同じクラスで仲もよかったため、何人かの男子から綾乃に関する相談を受けていたからだ
綾乃は活発でハキハキとした性格だが、素直で明るくいつも笑顔でいるため、男女問わず人気者だ
つまるところ、モテる
だから恋人ができたことぐらいあるものだと思っていた
「うん……ね、白石?」
綾乃は座っていた椅子からおもむろに立ち上がると、そよそよと風が入り込む窓の縁に手をかけた
「なん?」
俺は綾乃の方に目をやり、言葉の続きを待った
「私と────恋をしよう?」
「……─は?」
綾乃の言葉に思わず聞き返すと、綾乃はゆっくりとこちらを振り向いた
綾乃の表情は逆光のためハッキリとは見えないが、窓に射し込むオレンジの光が綾乃の輪郭を縁取り…─
──…とても、綺麗だった
「白石…私と恋をしよう?」
もう一度繰り返された真剣な声音の綾乃の言葉に導かれるように──…
…─気付けば俺は頭を縦に振っていた
2012*07*09