03.先輩と相合い傘
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ザァー…

昼までは真っ青だった空が嘘のようにどんよりとした雨雲に覆われている

まあ俺はロッカーにビニール傘置いてあるから突然の雨でもどうってことはない

今日は元々職員会議で部活も休みやし帰るか

俺は置き傘を手に校舎を出る

するとそこには…

「…先輩?」

「あ、財前くん!」

困ったように空を仰ぐ先輩の姿

「やだねー突然の雨…」

ふと先輩の手元に目をやるが握られているのは学校鞄のみ

「傘、ないんっすか?」

「うー…降ると思わんかってんもん…」

どうしよっかなぁ…と頭を悩ませる先輩

「…使いますか?」

傘を差し出すとブンブンと首を横にふった

「えっ!いいよいいよ!そんなんしたら財前くんが…」

「……じゃあ、入っていきます?」

「え…でも…」

先輩はうーんと少し考え込む

「先輩家どっちっすか?」

「えっと…あっち」

「じゃあ方向一緒っすわ。ってことで送ります」

「でも…」

まだ渋っている先輩を放って俺は傘を開き、先輩の方へ傾ける

「早よせな置いてきますよ?」

「わっ!待って!」




さて、こうして一緒に帰ることになったはええけど…

「これって相合い傘ってやつですね」

「は、恥ずかしいから言葉にせんとって…」

先輩は下を向いたままこっちを見ようとせえへん

「いつもの威勢はどうしたんっすか?なんからしくないっすよ」

「だって……ち…」

「ち?」

「近いねんもん…!」

さほど大きくない傘に二人で入ってるんやからそらもう肩が触れ合う距離なわけで

意識するなって方が無理やわ

「緊張してるんっすか?」

「…ちょっと」

「じゃあ相手が金ちゃんやったら?」

「んー…しやんかな」

「謙也さんやったら?」

「しやんなぁ」

あ、即答

「じゃあ…白石部長やったら?」

「うー…ん?どうやろ…?」

なんやはっきりせぇへんな

「今は緊張してるんっすよね?」

「う、ん」

「相手、俺っすけど」

先輩はしばらく黙り、小さく呟いた

「……財前くん、やから…かな」

「え?」

せやけど小さすぎて雨音に掻き消された先輩の言葉は俺の耳には届かんかった

「な、なんでもない!」

「えー?何て言ったんっすかー!?」

「なんも言ってなーい!」

大事な言葉を聞き損ねた気がする



そうこうしてる間に、先輩の家に着いてもうた

「あ、私んちここ!送ってくれてありがと」

「ついでっすから」

俺は素直に感謝の言葉を述べられるのがどうも気恥ずかしくて顔を背けた

「ふふっ」

「…何笑てんっすか」

「んーん、なんでもない!じゃあまた明日ね!」

「また、明日」

何てことのない言葉が妙に嬉しくて…

俺は突然の雨に感謝しながら先輩の家を後にした───





先輩と相合い傘


麻由は一旦家に入ると傘を持って再び外へ出た

そして辺りをキョロキョロ見回し、財前が来た道を戻っていくのを見つけると小さく笑みを浮かべた

「…うそつき」


──ほんまは同じ方向じゃなかったんやろ?


…ありがとう






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