財前くんと私
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「あれ…?」


昼休み、購買に行った私は渡り廊下で同じクラスの財前光くんを見かけた


「財前く…」


声をかけようと少し近付くと彼はどこかを見つめているようで


そちらに目をやると、


「えっと…確か、テニス部のマネージャーさん?」


3年生のテニス部マネージャーの姿が



財前くん、マネージャーさんを見てるの?



その人を見つめる財前くんの表情は無表情で、何を考えているのか分からなかった


けれど、私はなぜか彼から目を話すことができなかった──











数日後の放課後


「あ…」


私は再び財前くんを見かけた



その視線の先を追うと、そこにはテニス部部長の白石さんという人と、先日のマネージャーさんの姿

二人は笑い合いながら並んで歩いている



財前くんに視線を戻すと


「…っ!」


切ない瞳で二人をじっと見つめていた



…どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの?



もしかして

財前くんは、彼女のことが─






それからだろうか

私は財前くんを目で追うようになった



普段は何にも興味が無さそうに無気力な財前くん

あまり笑わない財前くん

やる気は無いけど要領よく何でもこなす財前くん



だけど私の頭にはあの日の財前くんの切ない表情がこびりついて離れない







「あ、財前くんや」


最近ずっと見ているせいか、よく財前くんを見かけるようになった


柱に隠れて見えないが、財前くんは誰かと話しているようだった


「誰やろ?」


私は気になって少し彼に近付いた


「っ!」


財前くんと話していたのはあのマネージャーさんだった


ニコニコと眩しい笑顔の彼女を鬱陶しそうにあしらうも、その瞳は見たことのないような優しいものだった


少ししてマネージャーさんが財前くんに手を振りながら去っていった


そんな彼女の後ろ姿を愛しそうに見つめる財前くん



ぎゅぅ



…あ、れ?


なにこれ
心臓がぎゅってした


自分の胸を押さえ、謎の痛みに思考を巡らせていると近くで物音がした


「…山本さん?」


ハッとして顔を上げると目の前に財前くんが立っていた



どくん



…またや



財前くんの瞳に私が映っている


「…見てたん?」

「へっ?あ…うん、ごめん」


真っ直ぐに見つめられ、思わず謝ってしまう


「何で謝るんや?」

「や…何となく…」


オロオロと瞳を揺らすと、頭上からふっと息の音が聞こえた


「…なんや、変なやつやな」



え、今一瞬……笑っ、た?


私が目を瞬かせていると再びいつもの無表情な財前くんに戻った


「あの、財前くん…」

「なんや?」


「さっきの人のこと…好きなん?」


あっ、と思った時にはもう言葉を発した後で、財前くんは僅かに目を見開いた


そして



「せやで」



あの人のことを思っているのだろうか、さっきの優しい眼ではっきりと肯定した



ずきっ



やっぱりそうやん

分かってた



…せやのに、何で私こんなにショック受けてんの…?




私は少し俯いた後、もう一度財前くんの方を見た




とくん




ああ、私…





財前くんと私




財前くんのことが、好きなんだ










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