10.先輩と、俺
bookmark


「ちょ…財前くん…!?待って…!」

先輩の声にハッとして俺はようやく立ち止まった

「あ…すんません…」

「どうしたん…?ってゆーかさっきのって…」



『触らんといて下さい、麻由先輩は俺のんっす』



「…どういう意味…?」

俺は先輩に向き直り、真っ直ぐに見つめる

「そのままの意味です」

「え…?」

「先輩に触っていいのは俺だけっす…俺以外の誰にも、触らさんといて下さい…」

最後は絞り出すように、俺は言った



─…こんなんただのワガママなんは分かってる

さっき白石部長に付き合ってくれって言われて、先輩は確かに頷いていた

でも……


俺はぎゅっと手を握りしめた


「財前くん…それって、どういうこと?」


先輩は俺の目を、探るように見つめ返してくる


「それは…」


好きやから─…



いざとなると喉の奥につかえて、肝心の言葉が出てこない


「財前くん…いつもそうやん……いつも…肝心なことは言ってくれへん…」

「せんぱ…」


先輩の瞳が揺らぐ


「前にキスしてきたときもそう…何も言ってくれへんから私…私…どうしたらいいか分からへんよ…」

「…」

「財前くんの考えてることが分からんくて…からかわれてるんかな、とか…いつも通りに接した方がいいんかなって……私の中で気持ちだけおっきくなっていっても、どうしていいか分からんくて…っ」


先輩の目から涙が溢れ、頬を伝った


「っ!先輩っ!」

俺は先輩の腕を引き、力強く抱き締めた


「…好きです…っ!めっちゃ好きなんです…!」

「っ!財前く…ん……うっ…」


先輩はしばらく俺の腕の中で泣き続けていた







──…


「ごめんね…?」

俺は泣き止んだ先輩と並んで近くの階段に腰をおろしていた

「いや、俺がはっきりしやんかったんがあかんかったんです……先輩がそんな風に思ってるなんて知りませんでした…」

「うん…」

「俺…先輩の気持ちを聞くのが怖かったんです」

「うん、わかる」

「先輩、好きっす」


先輩の手を握り、先輩を見つめると


「うん…嬉しい…」


先輩は柔らかく微笑んだ


「先輩は?」

「え?」

「先輩の口からまだ聞いてないです」

「う…もう知ってるくせに…」

「…ちゃんと言わな分からないんじゃないんですか?」

「うぅ…いじわる…」

「今さらでしょ?」

先輩はむぅーと上目遣いで睨んでくる

…そんなんしてもかわいいだけっすよ


「…………すき」

「聞こえないですよ」

「〜っ!大好きっ!…きゃ」


繋いだ手を引き寄せ、もう一度先輩を抱きしめると、先輩は遠慮がちに腰に手を回してきた



「…そういえばさっき、白石部長と何話してたんですか?」


ずっと気になっといたことを尋ねると、先輩は俺の腕の中で顔をあげ、首をかしげる


「さっき…?」

「…付き合うとか言うてましたやん……先輩頷いていたし…」


先輩はあぁっ!とようやく思い出したのか声を上げた


「買い出しにマネージャーとして付き合ってくれって頼まれたやつかな?」

「は…?買い出し…?」

「…もしかして、告白やと思った?」


か…勘違い…!?

なんや俺、めっちゃカッコ悪いやん…


「思いますよそら!あんな…はぁー…なんやねん…」


俺は先輩から顔を背け、頭を抱えた


「でも勘違いしてくれたおかげで、聞きたかった言葉やっと聞けたし…結果オーライやない?」


まあ…そうですけど…


「気にしたもん負けやで?」


先輩はきゅうっと俺に抱きつく力を強め、えへへと照れくさそうに微笑んだ


あー…

「…先輩、俺…今めっちゃキスしたいです」

「え…」

「してもええですか?」

「……今さら聞く?」


先輩は拗ねたような恥ずかしがっているような顔をして目をそらせた


「それもそうっすよね」


俺たちは目をあわせて互いに微笑みあうと顔を寄せあった

三度目のキスは少し先輩の涙の味がしたけれど、今までのキスの中で一番とろけるようで甘い、甘いキスだった





先輩と、俺

「財前くん、すき」

「俺も先輩めっちゃすきです」


今までの分もいっぱいいっぱい愛しますんで覚悟しといてくださいね?




(完)






[戻る]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -