──ザアアア


「にゃー……」


雨が降る中、どこからか猫の鳴く声がする。その声をたどる


「にゃぁん……」


子猫なのだろうか、声は高く細かった。


「にゃあ……」


声が近い。辺りを見渡す。すると一つのボロい段ボールが目につく。

中を覗くと案の定、１匹の子猫が寒そうにプルプルと震えている。


「……捨てられたの？」

「にゃあ……？」


子猫はなんだといった様子で小首を傾げる。可愛さ殺人レベル。

しかし見たところ、捨て猫だろう。


「君も、一人なんだね」


と言うのも、私は先程恋人に別れを告げたばかりなのだ。彼は何度も浮気を繰り返し、私はそれにたえられなくなったのだ。


見つけておきながら、そのまま放っておくなんて私は出来なかった。生憎私は一人暮らしの独り身なので連れて帰っても問題はないだろう。

タイミング良く、たまたま鞄に入っていたハンドタオルを取り出し、そのまま子猫を包み込んで抱き上げる。とても軽かった。

餌は……後で缶詰でも買おう。




家につき、とりあえず洗ってあげる事にした。

……何で洗えばいいんだろう……。シャンプーやポディーソープはなんだか怖いので石鹸で洗ってあげた。

子猫は嫌がるそぶりも見せず、大人しくしてくれていた。お利口な猫ちゃんだ。ドライヤーで乾かす時も全然嫌がらない。
暴れ出した時のための心の準備は必要なかったようだ。


「かわいいな、」

ソファの上でくつろぐ子猫の首を撫でてやると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


そうだ、名前をつけてあげよう。

「名前、どうしようか？」

「にゃん？」

「たま？」

「……？」

「……ぽち」

「…………」

んー、と唸ること数分、ある名前が１つ浮かんだ。


「──まもる」

「にゃお〜ん」


気に入ったのだろう、ひと鳴きするとゴロンと腹を見せてひっくり返る。

すかさず腹をこそばすと、げしげしとじゃれつく

「ふふっ、じゃあ君は今日からまもるだ」

「にゃー」

「よろしくね、まもる」

「にゃあん」




その夜、別れた彼のことをおもい、泣いた。空気を読んだようにまもるは布団の中に潜り込み、私の濡れた頬を舐めた


「まもる、聞いてくれる？」

「にゃあ」


不思議と、まもるの鳴き声は安心できた。それに甘えて啜り泣きながら出来事を話した。


「さみしい、よ……」


するとまもるは、僕はここにいるよ、といったかんじに擦り寄ってくる。

そうだ、今はまもるがいるんだもの。寂しくなんかないよね


「ありがと、まもる……」


まもるを抱き寄せ眠りについた。





それから数ヶ月、彼のことはもうだいぶ前に吹っ切れ、まもるはすくすく成長し大きくなった。

動物の成長とは早いものだ。

まもるは私の掛け替えのない存在となっていた。

彼のことは吹っ切れたが、次の出会いを探そうとは思わなかった。

私にはまもるがいればそれで充分。そう思うようになっていた。



大学生な私は勿論学校に通っているわけで。その帰りに餌がきれていた事を思い出し店に寄る。
今日は特別にオヤツも買ってあげよう。




「まもるー、ただいまー」


そう呼びかけるといつもは元気よく飛びついて来るのに、今日はそれがない。

どうしたのだろうか、なんだか胸騒ぎがして慌てて家に入る。

「まもるー」

姿が見当たらない。胸がざわざわと騒ぎ出す。心拍は急上昇、顔は真っ青になっているとこだろう

「まもるー！？」


──ガタッ

？！
寝室の方から物音がする。急いで駆け込むも、そこにはまもるの姿はない


「ん……っ」


その変わりに、一人の青年が私のベッドで寝ていた


これは一体、どういうことなのだろうか……。


彼は目を覚ましたのだろう、起き上がり目を擦る


正直怖かったが、そんな事を言っていられる場合じゃない、勇気を振り絞って声を押し出す


「あ、あの……！」


すると彼は私の存在に気づいたようでこちらを見た。

あれっ、なんでだろう。彼はみるみる笑顔を咲かせ、バッと私に抱き着く

その反動で私は倒れてしまう。思考が追いつかない


「いった……！」

「名前！お帰り！」

「は？…………えっ、いやどちらさまですか？」

「ん？何言ってるんだよ、俺だよ俺！」

「いや──」
「名前の飼い猫のまもるだよ！」

「え……？」


彼は何をいっているんだろうか。どう見ても明らかに人間だ

私が顔をしかめると彼はあらぬことを口にした


「俺、人間になれたんだ！」


それから彼はあった事を話した。


つまり、昼寝から起きたら人間になっていたと。

しかし彼は嘘など言っていないだろう。まもるにしか話していないことも知っていた。
まとう雰囲気も、まもると同じなのだ。

普通ならこんな話信じないけど、なぜだか信じれたのだ。


「ほんとに、まもるなんだね……」

「おう！人間の体は少し動きにくいけどな」

でも、と続けるとまもるは私をギュッと抱きしめた。

「やっと、俺の気持ちを伝えれる。名前と会話のキャッチボールができる……名前、聞いてくれるか？」

「ん、」


そう頷くとまもるは深呼吸を一つ。


「まず最初に、俺を拾ってくれてありがとう」

「うん……」

「長くなるから、とりあえずあと一つだけ、……」



「俺、名前好きだ、ずっと側にいたい。名前が俺に、私には俺だけだって言ってくれてうれしかった！同じで俺には名前しかいないんだ……」
「名前から沢山話聞いて、側にいたい、俺が守ってやりたい、……人間になりたいってずっと思ってた」


まもるの話を聞いて、思わず涙が溢れ出す。まもるは、こんなに沢山考えてくれていたんだ


「まもる、聞いてくれる？」

「おう、」

「私の側に、ずっと居てほしいの……」


するとまもるは、とびっきりの笑顔で「当たり前だろ！」と言った


まるで夢のような話だが、すごく幸せだった。もしこれが夢ならば、一生覚めないことを願います



「好きだよ、まもる」


ねこカレ