「あ、名前ー!」


うわ来た。

今私の名前を呼んだのは、一応彼氏の佐久間次郎。

こいつは私のことなんかどうでもいいように、いっつもいっつもいっつも馬鹿の一つ覚えみたいにペンギンペンギンって。


「なぁ見てくれよこのペンギンさん!」


ほら出た。
こいつはどんだけペンギンが好きなのよ。
すっごく嬉しそうに限定品が手に入ったんだのなんだのと喜んでいる。

次郎の笑顔は大好きだ。まだ幼さが残っていて、笑うとすごく可愛いのだ。

私はいつだって次郎が大好きなのに……ペンギンばっかりに構って……。

私だってペンギンは好き。でもこいつのは異常。
笑顔になるのはいつだってペンギンの事ばっか、それが腹立つのだ。


「ねえ次郎」

「んあ?」

「私とペンギン、どっちのほうが好き?」

「そりゃペンギンさん………………あ、」


次郎はしまった、みたいな顔してる。なんなのこいつ、もう怒った!!


「へー、次郎は私よりペンギンのほうがいいんだ。」

「おい」
「そうだよね、私のことほったらかしてペンギンのことばっか」

「聞けって」
「ペンギンの方が好きなんでしょ?だったらペンギンと付き合えば?!次郎のばか!!もう知らない!!」

「おい名前!!!」


次郎が何か言ってるけどもう知らない。怒りか悲しいのかわからない涙も知らんぷりして机にかけてあった鞄を引っつかんで全速力で家に帰った。

お母さんがビックリしてた。下から呼ぶ声がする。携帯も鳴ってる。それも全部全部無視して、制服が皺くちゃになるのも気にせずベッドに潜り込んで、お母さんに聞こえないくらいの声で泣いた。

「次郎の、ばかぁ…っ」


この時、次郎が部屋の前に居たことは次郎とお母さんしか知らない。



ーーーーー


目が覚めた。どうやらいつの間にか寝てたらしい、もう朝だ。

鏡を見れば目は真っ赤に腫れて制服はしわしわ
とても学校に行ける感じでは無かった。昨日のことでも憂鬱を感じ、休む事にした。


「お母さん、今日休む」

「そう。あ、昨日次郎くんきてたわよ」

「え……」

「なんか心配してたわよー。昨日部屋から出て来ないしどうしたのよ」

「なんでもない」

「そう……あんま目擦るんじゃないのよ」


そう言うと、そっと保冷剤をくれた。お母さんの優しさだ、我ながら良い母をもったと思う。

「ありがとう、お母さん……」



部屋に戻り、そういえば と携帯を開くと目を見開くほど驚いた。

恐ろしい程に残された着信履歴と数件のメール

着信履歴は全て次郎からの物だった。メールはメルマガと1通だけ、次郎からだった。


今日は悪かった、明日話がしたい。

という内容

昨日自分がやった事を思い出しサッと血の気が引くのがわかった。

今日は学校も休んでしまったし話はどうなるんだろう、話とはやはり別れ話なのだろうか、様々な考えが飛び交う。内容はどれもマイナスな事ばかり。

だんだん怖くなってきた、次郎とは別れたくない……好きだよ、やだよっ……


色々考えていると携帯がブブブッと震えた。次郎からの着信だ

出ようか出まいか迷っていると着信が切れてしまった。

また少ししてから携帯が震える。言わずとも次郎からの着信

勇気を振り絞ってボタンを押す


「もし、もし……」

『名前……?』

「うん、」

『学校休むのか』

「うん……」


次郎は今学校にいるのだろう、後ろからガヤガヤと色んな話し声が聞こえた。


『今からお前の家いくから』

「え、」
『逃げるなよ』

「ちょっとまっ……!」


電話が切れてしまった。今から来るって、どうしよう……。

とりあえず制服のままだったので着替えることにした。



そしてから次郎はすぐに家についてしまった。下から話し声がする。

ゆっくり、ゆっくりと足音が近づいてくる

何だか怖くなってベッドの中に潜り込む。

足音は部屋の前で止まった。


「名前……。」

「……」

「入るぞ」


ガチャリ、と部屋の中に入ってくる。
どく、どく、どく、心拍どんどん上がってくる。こわい。何を言われるのだろうか


「名前」

「……」

「昨日は、ごめん……。その……ペンギンさんの、テンション上がっちゃってて、……ごめん。」

「……」


しばらく沈黙が続く

のそり、と布団から顔を出すと目の前に次郎がいた。次郎顔は、すごく悲しそうだった


「……名前」

「私、次郎が好きだよ……」

「うん」

「なのに、次郎はいっつもペンギン、二人でいてもペンギン、ペンギンペンギンって……私だけこんなに好きなの、って」

「……」


少しダルく感じる体を起き上がらせる。はらりと涙が零れた


「ペンギンに、嫉妬して……かっこわるぅ……っ。でも、次郎構ってくれないし、ひっく、ペンギンの方が好きっていうしっ……うぇっく……っ」

「ごめん……」

「次郎のばかぁああっ」

次郎にそっと抱き寄せられうわんうわんと小さい子供みたいに泣きじゃくった。


「……落ち着いたか?」
「うん、」

「昨日の、ホントごめん。俺、名前の事好きだから、大好きだから、ほんと……。好きな、大切な女泣かせて、最低だな俺……。」

ぎゅっ、と抱きしめられる

「もう、ペンギンさんばっかじゃなくて、名前の事……、ちゃんと幸せにするから、俺から離れたくなくなるくらい」

真面目な顔しなからもポッ、と頬を赤くそめて照れるようにする次郎を見てぷっ、と吹き出した

「笑うなよ」

「ふふ、ごめん……なんだか可愛くて」

「……お、お前のが可愛いし……」

「…!ばっばか!そんなので許すと思ってんの!?」

「お菓子奢るから!」

「食べ物で女の子を釣れると思ったら大間違い!」

「うっ……」

「…………煎餅のおっきいやつね」


目がバチリと合うとお互いに吹き出し、少しの間笑った


「私の事も構ってね」

「おう」

「ねえ次郎」

「ん?」

「私とペンギン、どっちの方が好き?」

「そりゃ名前に決まってるだろ?」


次郎がそう言うと、私の唇と次郎の唇が、どちらともなく重なった。


(それにしてもお前、おっきい煎餅って……!ぷくくっ)(なっ!煎餅馬鹿にするやつは煎餅に泣くんだからね!)



彼女<ペンギン
 






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