「何をしているんだ」

凛とした声が中庭に響く

逆光が晴れ、声の主が徐々に見えてくる。



そこにはサッカー部のエースストライカーとうたわれる少年、豪炎寺修也がいた。

何故、と私は目を見開いた。私は彼を一度、窓越しではなく直接見たことがある

円堂に無理矢理つれて行かれた日、ボソリと何かを呟き目が合ったのは彼だったのだ。




「あ?」

私を掴んでいた男子生徒が言葉を発する。すると豪炎寺修也は鋭い目を細め、ギラリと更に鋭く光らせた。



「何をしているんだと聞いてるんだ」


「チッ……てめぇら戻るぞ!」


一言声をかけると私を投げ捨て、男子生徒達はぞろぞろと去っていく。

投げ捨てられ、倒れた私に彼は手を差し延べた。それに甘え手を掴むとグイッと引っ張られ立ち上がる



「大丈夫か?」


「なん、で……」



私の頭には疑問しかなかった。なんで彼は私を助けたのか。普通だったら見ても見ぬフリでスルーするはずなのに、と。


「ああいうのはスルーできないんだ。しかも円堂のお気に入りらしいからな」


「……そう。」


しかし謎な事には変わりなかった。


「一応礼を言います、どうもありがとう」

「たいしたことじゃない」


そう言うと彼は私の顔をジッと見た後、ふっと微笑むと去って行った。

なんだったのだろう。お昼ご飯なんかは忘れ、私はぐちゃぐちゃになった花壇の片付けに入る。

帰りに先生に報告しよう……






────



実は、この一部始終を見ていた者がいた。村上は気づいていなかったが、たぶん豪炎寺は気づいていただろうと思う。





先生の話が長引きすぎだ。村上を待たせてはいけないと急いで中庭にむかった。


近くに来たあたりで女の叫び声がきこえた


「や、やめなさい……!!」


その声を聞いて、サァッと血の気が引くのがわかった。今の声は村上の声だ、聞き間違えるわけがない。嫌な予感がして全速力で走った。



その時見たのが、村上が男に捕まれている所だった。奥には荒れた花壇が見えた


すると村上はヤメテ、と暴れだす。そんな事したら……!考えた時には遅かった。村上の手が男の顔に当たってしまう。それにキレた男は荒く声を張り上げ、手を上にあげる

「てんめぇ!!!」

「いやっ……!」


「やめ──」
「何をしているんだ」



俺が止めに入ろうとした時、何者かが俺の隣を素早く駆け抜け、そいつがパシッと振り上げられた手を掴んだ。

その人物を見て俺は更に衝撃を受けた。


「なんで、豪炎寺が……」


俺はその場に立ち尽くし、グルグルと思考を巡らせる。何より俺が村上を助けられなかった……。素早く行動出来なかった自分を悔やんだ。

後悔ばかりが後をしめる


ガリッと自分の唇を噛むとのそのそとその場を後にする。









「円堂」

「……あ……豪炎寺か」


老いかけて来たのか、今会いたくない人No.2に会い、気分が沈む。No.1はいわずも村上である


「いいのか、行かなくて」

「あぁ、うん……」

「なんだ、らしくないぞ」

「ごめん、一人にしてくれ」

「……そうか」



俺は最低だと思った。何も悪くない豪炎寺にあたって。でも俺のかわりに村上を助けた豪炎寺に、もやもやを感じた。それが何かはわからず、残りの時間を過ごした。







(結局、円堂は来なかったなぁ……)(こんなの見られるよりはマシ、か。)




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