「──…っかずほ!!」


かずほの病室を勢いに任せて思いっきり開いた。

すごく驚いた顔をしていたけど、それをスグににへら、と崩しいつものように微笑んで優しく「いらっしゃい」と言った


その微笑んだ表情を見た時、それは余りにも自然で、本当は記憶を無くしただなんて嘘なんじゃないかと思うくらい



「えっと…、ある程度の話は看護婦さんに聞きました」

「あぁ、」


「それと、見て良かったのか分かりませんけど…私の携帯も見ました。本当に、彼氏さんだったんですね」


「……かずほが事故にあった日、あの日は俺達が付き合って5年目の記念日だったんだ……」

「……。」


「俺が、ちゃんとしてれば……っ!」


「風丸さん」


俯いていた顔を上げれば、彼女は真っ直ぐと俺を見ていた。そして、手には一つの温もり

彼女は目を伏せ首を横に振る


「自分を攻めてはだめです。それに、風丸さんの悲しそうな顔を見ると…何故だか胸が痛むんです…。」


眉を八の字に下げ泣きそうな顔で「記憶が無いのに、なんかすいません」と申し訳なさそうに謝るのだ

俺は目から涙がこぼれ出すのをグッと堪えた。鼻の奥がツンとする


「謝らないでくれ……。記憶が無くなったとしてもかずほはかずほだろ?」


記憶が無い、という点と敬語を抜けば以前と全く変わらないかずほなのだ


スッ、と息を吸う

「無理にとは言わない。かずほ、また俺の事を好きになってくれないか…?少しずつでもいい、」


「ぇ、で、でも…!私記憶がなくて……」


「さっきも言ったけど、お前はお前だ。俺はかずほという一人の人間が好きなんだ」


「私、でもいいんですか…?」

「ああ」

「いっぱい迷惑かけますよ?」

「うん」

「風、丸さ…っ!」

「うん…」

目の前の彼女はくしゃりと顔を歪ませ、その瞳からは大粒の涙が零れた

その涙を手でそっと拭ってやり、微笑みかける


「まずは、俺の事を知って欲しい。それから沢山出かけたりして思い出を作らないか?」


もしかしたら記憶が戻るきっかけになるかもしれないし、と提示してみれば彼女は「はい」と了承した


「それじゃあ、まずは怪我を治さなきゃですね」


といたずらそうに微笑んだ



不安と愛しさと
(かずほが帰ってくる前に)(家の中を片付けないとな)



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