それからの事はよく覚えていない。気づいたら病院にいて、病室の椅子に座っていた


どうやら命に別状はないらしい。ただ頭を強く打ち、右足が折れている。腕、顔に打撲とかすり傷などもある


足にはゴツいギプスが着けられ、頭には痛々しく包帯が巻かれ腕や顔にまでガーゼなどが貼られている。腕には点滴。



胸がギュッと締め付けられたように痛んだ。不思議と涙は出なかった。


早く目を覚まして、笑って、俺の名前を呼んでほしい…声が聞きたい…。


事故が起きてから3日たった今もかずほは一向に目を覚ます気配がない


俺はろくに食事も睡眠もとらず、ずっと彼女の傍にいて、ずっと手を握っていた





「かずほ……」





──…ピクッ




……!!


今一瞬、指先がぴくりと動いた。俺はギュッと手を握る

かずほ、かずほ、かずほっ…!!!



死んだように眠っていた彼女の瞳がゆっくりと開いて、眩しそうに目を細めた


「かずほ、」

「ここ、は…?」

「病室だ。かずほ、覚えてるか?事故にあったって」

「え…?事故……、」


覚醒しきっていないのか、声色はふわふわしていて、まわりをキョロキョロと見回している


とりあえず、目を覚ましてくれたことにホッと息を吐く。後は回復を待つだけなのだ



キョロキョロと辺りを見回していたかずほとバチリと目が合う

なるべく安心させようと優しく微笑む

しかし彼女は顔をしかめた



「えっと……」

「ん?」

「貴方はいったい…?」

「ははっ、また何かの遊びか?俺は彼氏の一郎太だろ?」

「一郎太さん、ですか…」





冗談だろ、ただそれだけだった。医師の話だと一部記憶の損傷


記憶が戻るか戻らないかは定かではないらしい。


明日戻るかもしれないし、1年後に戻るかもしれない、50年後に戻るかもしれないし、死んでも戻らないかもしれない



それを聞いて、頭の中が真っ白になった


さっきの何もわからない、というかずほの顔を思いだし、胸が痛くなった



久しぶりに家に帰る。当たり前だが3日前のままだった


俺と彼女の物

確かに、ちゃんと、俺はここに2人で住んでいたんだ


そのままソファに倒れ込むと、今まで寝ていなかった分の眠気がどっと押し寄せ、一瞬にして深い眠りへと落ちていった









あれから一週間は過ぎた


俺はずっと家に引きこもりっぱなしだ。

その間、無心でいたり、思い出の写真を見たりしていた

時には喧嘩したりもしたが本当に幸せだった

本当に、本当にかずほが好きで好きでたまらなくて愛していて、とても愛おしい


その時思ったのだ


彼女の記憶が無くなったとしても、かずほはかずほ。間違いなく自分が愛した女性なのだ


いままで落ち込んでいた自分が馬鹿らしく思えた


彼女は今何も覚えていない、何もわからない状況で怖くないはずがないのだ。支えてあげられるのは俺しかいないのに


本当に馬鹿だ




記憶が無くても、戻ら無くても、彼女の傍にいて、彼女を永遠に愛し続ける

そう心に誓った



愛すこと
(彼女に)(会いたい。)



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