『あ、もしもし一郎太?私だけど、少し遅れる!ごめん…!』
「大丈夫だ、慌てるとまた転ぶぞ」
『もう!心配性だなー。もうこけないよ』
「とかいいつつ、この前階段で転びそうになってただろ?俺は待ってるからゆっくりおいで」
今日で俺とかずほが付き合い始めて5年目になる。
世間からしたら何でもない1日だけど、俺たちからしてみれば大切な記念日なのだ
俺は完全オフだが生憎、かずほにバイトが入ってしまった。店長を説得し、早く上がれるようにしてもらったらいが、どうやら待ち合わせ時間より押してしまったらしい。
待ち合わせ場所の駅前のベンチに緊張の面持ちで彼女を待つ
付き合い始めて5年になっても、やっぱり大切な意味をもつデートには緊張してしまうのだ
そして今日俺は、彼女にプロポーズをしようと思う。
大学にあがってから俺たちは同棲を始め、それなりに充実した毎日を送っていた
その中で密かにこつこつとお金を貯めて、通常のプレゼントとは別に指輪を用意していた
彼女は喜んでくれるだろうか
それからふ、と顔を上げると向こう側で彼女が信号を待っていた
バチリと目が合い、お互いに微笑んで軽く手を振った
ベンチから離れ彼女を迎えに行く
信号が青になり、彼女は満面の笑みを見せ「一郎太っ!」とこちら側へ走ってくる
ほらほら危ないぞ、
苦笑いしながら彼女を抱き留める準備をする
走り飛び付いてきた彼女をそっと抱き、ちゅっ と頬に軽くキスを落として、
それじゃあ行こうか
俺たちはどちらともなく手を結び歩き出す
いろんなところを見て回って、その後は少し背伸びをして予約をしていたレストランでディナー
それから、プレゼントを渡して。
話題も尽き、少し沈黙が訪れた時。これからが本題だ
こそりともう一つのプレゼントを出して……───
───キキキキキーーーッッッ!!!
──ドガッ
駅前の大通りで車のブレーキ音がけたたましく鳴り響く
周りからはあらゆる人の叫び声
その時俺は何が起きたのか全く理解が出来なかった
いったい何が起こったのか。
人の悲鳴
点滅する信号
目の前に止まる自動車
その下にはブレーキしたタイヤの跡と
斜め前には、
───……愛しい彼女の姿
彼女はぐったりと倒れており、血溜まりが出来ている
彼女は車に轢かれてしまったのだとわかった
横たわる彼女にふらふら歩み寄って、その場に膝をついた
彼女を起こしてそっと腕に抱く
ぬるり、と赤い液体が手や服につくことを気にせず。
「かずほ、」
「かずほっ…!」
「かずほっ!!!」
返事がない。動かない。かろうじて息はしているものの、それはとても浅いものだった
──…彼女は死んでしまうのだろうか?
いやだ
いやだ
いやだ
信じたくなかった
「うわぁあああぁあ゙ぁぁあぁああぁああ゙あ!!!!!!!!!!!!」
赤い記念日(俺は涙を流し)(叫んだ。)
(
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