(早く帰らなきゃ…またお母さんに怒られちゃう)
わたしはそう思いながら、家へと急いでいた。
いつもより風が強いせいなのか、わたしの心は不安でいっぱいだった。
(何でこんなに胸がざわつくの…)


……

「しいな、夜は出歩いちゃ駄目って何度も言ってるでしょう」
いつもは優しいのに、この時のお母さんはいつも怖い。

「まだ6時だよ…お母さん。何でいっつもそんなに怒るの?」

「…」

さっきまで新聞を読んでいたお父さんが立ち上がってこっちに来て。
「しいなにも話しておく必要があるな…」

「お父さん…?」

「最近、私たちの羽を売って商売をする人達が居るんだ」

「羽を…売る…?」

「ええ、私たちの羽をもいで売るの」

「何で…?何でそんなことするの…?」

「…何で夜出歩かないでって言ってるかわかったわね?」

「うん…」

「よーし、いい子だ。
来週みんなで何処かに出かけよう」

「わーい!お父さん大好き!」

……


「ただいまっ、遅くなってごめんなさいお母さん」

はあはあ、肩が激しく上下に動いているのがわかる。
久しぶりに全力で飛んだなあ、などと思いつつ部屋に目をやると
(…誰…?)
見知らぬ男の人たちが居た。

「お父さん?お母さん?!」

「しい、な…来ちゃ駄目…逃げなさい…」

薄暗くてよく見えないが、床に血溜まりが出来ているように見える。
(あれ、お父さん…羽が…)

「いや…いや…やだ…何してるの…?
お父さん…お父さんの羽が…お父さん…背中…血が…ああ…」

「おっ、餓鬼も居たのか。こりゃあついてるなあ
お嬢ちゃん、君の羽も貰うよ」

悪い顔、黒い服の男、鈍く光る刃物には赤い紅い血がべっとりと…

「しいな!早く逃げて!」

わたしの思考を打ち消すようにお母さんが叫ぶ。

「でも、でもお母さん…お父さんが」

「早く行きなさい!
…私の羽をあげるからあの子だけは助けて」

「くうー泣かせるねぇ、じゃあ遠慮なく…。」

黒い、男は、その、刃物を振り上げて、

「やだ、やめ、やめてええええええええええええええええ
ああああああああああああおかあさ…おかあ…おか………っ…」

わたしの叫ぶ声だけ響いた。薄暗い部屋で。
窓から差し込んでいた夕日がとても赤くて、紅くて、あかくて。

わたしは、その場所から逃げ出した。

そしてわたしは、その場所に自分の声を置き忘れてきてしまったの。



Back