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「現場の遺体は二係の山門屋執行官。ドミネーターによる執行だが撃ったのは二係の酒々井監視官。執行後、山門屋のドミネーターを持ち去り消息を絶った」
「監視官が消えた...」
「正直訳が分からん。監視官、本当に何も見ていないのか?」
「えぇ。私が異変を感じてここに来た時には既にこの状態でした」

「手掛かりはこいつだけか」とお手上げと言わんばかりな宜野座をはじめ一係の面々は壁に描かれた奇妙な文字を黙って見つめる。
意味の不明な黒々とした赤の血文字は、何も語らず不気味さを漂わせる。
最後に書かれたクエスチョンマークがその存在を認めろと、理解してみろと挑戦してくる。

それから無理やり目を逸らすように瞳を閉じる。
瞼の裏にまでその赤はこびり付いていた。




* * *




「山門屋執行官が死亡、酒々井監視官の謎の失踪という不可解な点は残りましたが結果として喜汰沢を生きたまま拘束することが出来ました。後に今までどのようにしてサイコパスをクリアに保っていたか聴取する予定です」
「ふむ、概要は分かった。聴取には君も付き合うように」

お互い目線を一度も交わさないままに禾生と郁の事件報告が終わる。
送られてきたデータに目を通していた禾生の視線が、ふと目の前のソファへと動く。

「珍しいこともあるものだね。何か私に相談したいことでもあるのかな?」

自分が話しかければ応対する事はあるが、それ自体珍しい事で、まして向こうから口をきくなど無いに等しかった。
そんな彼女が用もなく部屋に居座り続けている。
いつものからかいの言葉で煽っても顔を背けず、どこか一点を見つめたまま考え込んでいる。
明らかに様子がおかしかった。

「酒々井監視官…」
「彼女がどうかしたかね?」
「…本当に彼女は本人の意思で姿を消したの?」
「何が言いたい」
「あの場には酒々井監視官以外の誰かがいた、違う?」

シビュラシステムの中枢に関わる人間がおいそれと抱いてはいけない疑問を郁は何の躊躇いもなく口にした。
あの公園には公安局の二人以外誰も存在してなかった、確かに記録ではそう残っていた。
しかしシステムにも認識出来ない存在というものがないわけではない。

「…君の妙に冴えた勘繰りだけは毎度関心させられる」
「じゃあ、やっぱり」
「あぁ。シビュラシステムの目を完全に掻い潜る者は確かに存在する。がしかし君はこの件に拘らないことをお勧めするよ」
「何故?」
「君には大事な秘密があるだろう。
これは親の私からの親切な忠告と受け取ってほしい。君が精一杯隠してきた秘密をこんな事で公に晒すのは本意ではないだろう?」

そう言った途端明らかに空気が変わった。
その変化を見逃さず禾生はただ微笑んでみせる。

「…そういうこと。分かりました、この件に関して私自身から首を突っ込むことは今後一切しません。その特異な存在についてもシビュラが黙認し続ける限り看過します」
「賢い判断だ。そうでなくても処分の仕方は幾らでもある。事を大きくする程でもない」

いつも通りの業務的な口調に戻った郁に禾生の気分は良くなる。
自分たらしめる根幹に触れられる事を嫌う彼女は全てをその根幹の一歩手前で遮断する。
他の全てに対する物差しがその時の気分に左右されようが、その線だけは決して揺るがない。
揺るがされることがあればすぐにその原因から手を引く。実にわかり易い駒である。

「恐らくだがいずれ常守朱もこの件に首をつっこんでくるだろう。そうなったら無理に捜査を辞めさせなくていい」
「好きに泳がせろということですか。彼女を使ってその透明人間もあぶり出すと」
「そういうことだ。頼んだよ葦簀監視官」

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