count 02


「遅くなりました常守監視官」

車から降りて輪の中心にいる人物に声をかける。
彼女が顔をあげればもれなく周りにいたその他の視線もついてきた。

「平気よ、まだ作戦開始前だから」
「ありがとうございます。それで状況に変化は?」

近付いてきたドミネーターを搭載したドローンから銃を引き抜く。
使用許諾を伝える指向音声をうしろに聞きながらデバイスを開けば喜汰沢の情報が浮かび上がる。

「送ったデータに特に変更はないわ。喜汰沢は二十分前にこのビルに入っている。犯行声明での爆破の予告も一つじゃない」
「状況に何一つの好転も無しですか」
「不安を募らせた市民のストレスが一気に上昇する可能性もあります」
「確かに六合塚執行官の言う事も一理ありますね。どうしますか常守監視官」
「葦簀監視官は私と東金執行官と雛河執行官と共に行動してください」
「了解」

ドミネーターをしっかりと握りなおし歩き始める朱を不満の色を隠さず見つめる霜月を視界の端に捉えながら郁は心の中で溜息をつく。
また始まったと。




* * *




[先輩、何故突入ではなく待機なのですか?]

相変わらず霜月は朱に対して反感の意を分かりやすく顕わにする。
事件がある度、どうにも朱の方針が気にくわないのか食ってかかるので共に任務にあたる郁の身としては実に面倒な話である。

「どうして喜汰沢は過去の爆破でサイコパスが濁らなかったと思う?」

しかしいつでも朱は冷静だ。
的確に重要なポイントを捉えるだけの知識と経験が彼女には備わっている。
それは郁がそう長くはない期間仕事をしただけでも感じられることだった。
解体現場の監督官であるのだから爆弾を扱うのはわけないと主張する霜月の声が聞こえたが郁は瞬時にそれは違うと感じた。

シビュラは自分に仇なす者の悪意を読み取れないほど鈍くない。
テロを計画した時点でサイコパスが濁っても不思議はない、朱の言うとおりだ。
何らかの手段で喜汰沢がサイコパスをクリアに保っていたのは確信的だった。

[常守監視官]

霜月ではない第三者、二係の青柳監視官の声が割ってはいる。

[私も突入すべきだと思う。過去の爆発の影響でエリアストレスの上昇が桁違いよ。新しい潜在犯がうまれる前に仕留めなきゃ]
「しかし、」
[時間が惜しい。二係突入]

制止を無視した青柳の命令に朱の顔に焦りの色が浮かぶ。
喜汰沢の暴走を懸念してるにしては過剰な反応をみせる朱の様子に郁はすぐに思い当たることがあった。
なるほどそれならと朱の強い警戒にも納得がいった。

「もしかして喜汰沢の狙いは...」
「恐らくそのまさかよ。聞いてください青柳さん。今回の連続爆破事件による死傷者はゼロ。犯人はあえて一般人の被害を抑えたとしか考えられない」
「そう考えた時犯人の目的は自ずと一つに絞られます。爆発により想定される事態として確実なのは、まず青柳監視官が仰っていたエリアストレスの上昇。そしてもう一つは自分を追跡する公安の存在」
「その通り。犯人は私たちを挑発し待ち伏せている可能性が高い」

通信の向こう側で青柳の息をのむ音が聞こえるのと同時に、そう遠くない所から爆発音が響いてくる。
朱の側に東金が寄ったことを確認して郁はすぐさま少し離れた雛河とコンタクトの取れる距離へと走る。
警戒を促す朱の声に返事をしながらおどおどする雛河を小さく小突く。

「しっかりしてください、雛河執行官」
「はっ...はい」

先に向こうに接触したのか、霜月達のいる方から再度爆発音が聞こえた。
急激に渾然としていく場は止まることを知らず、次いで上から解体用のドローンが朱めがけて落ちてくる。
あの人なら心配ないかと思い辺りを警戒していればシャッターがあがり中から車が出てくる。
それを執行するのに声を上ずらせる雛河にもだが、そんな雛河を止める朱にも呆れた。
面倒事を自分から増やす彼女の行動原理を理解は出来るが、到底見習いたいとは思えない。
固まる雛河を押しのけて車から避ければ、「ありがとう」と小さな声で呟かれる。
自分への被害を防いだだけで助けたつもりは微塵もないのだが。

「感謝する暇があるなら働いてください。常守監視官、私は車を追います」
「おねがい。東金さんと雛河さんも犯人の追跡を。ここは私が対処します」

そう言ってドローンへ向かってく後ろ姿を暫く見つめたのち郁は踵を返して執行官二人とは別の車に乗り込む。

「本当に変わったな」

一係に就くにあたって見せられた情報が脳裏に過る。

「誰かさんにそっくりだ」






(その呟きの)
(行方や知れず)

- 2 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -