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「この間、君が保護した潜在犯の最新の犯罪係数は?」
「あ、えっと、」
「…247、君がほんの数十秒前に読み上げた数値だ。随分と上の空のようだが、葦簀監視官」

どうにも突っかかる口調に革張りの上等なソファに腰掛ける郁は、嫌味な言い方をと禾生に横目で視線を返す。
頬杖をついてにっこりとした人の良さそうな顔で笑ってるのだから更に質が悪い。
そろりと目を逸らせば、クスリと笑う声が聞こえるのが尚更だった。

「別に、特に何も」
「本当に?」
「...貴方ならそこまで聞かずとも分かるのでは」

そう言えば、確かにねとさも当然といった言い草が返ってくる。
クルクルとゆっくり椅子を回す音が聞こえる。
どうやら今日はいつもにまして機嫌が良いらしい。

「だが偶にはこうして言葉でコミュニケーションをとるのも大事だろう」
「...どの口が」
「僕たち親子なんだからさ」

キッと音が鳴って動いていた椅子が止まる。
真っ直ぐに微笑みかけてくる笑みは言外に目を逸らすなと言っていた。
こうして彼らは時に言葉で縛ってくる。
郁が自分たちシビュラに逆らえないと誰よりも理解しているから。

「...そうですね母さん」

温度もなにもまるでない、形だけの言葉が郁の口からこぼれる。
それに満足した禾生は再度にこりと笑って退出を命じる。
勝手に呼び出しておいてと、内心ごちながら机の上に広げていた書類を一つに纏め、郁は扉へと向かう。

「そうそう」
「まだ何か?」
「常守監視官の動向には継続して注意を払うようにね」

会うたんびに聞かされる命令に辟易としたが顔に出さず、了解と呟いて部屋を後にする。
一係のフロアのある階まで降りるエレベーターの中でふと考える。

常守朱。
シビュラの正体を知り、その在り方を容認しないでおきながら色相が濁らない鋼の精神を持つ稀有な人材。
彼女の生き方を好ましく思う者もいるみたいだ。
その感覚はよく分からないが。

「はい、葦簀」
[すいません、葦簀監視官。今すぐ現場に直行してほしいのですが]
「例の無差別爆破ですか?」
[察しの通りよ。でも今回は犯人に目星がついてるの、詳細はデバイスに直接送るわ]
「了解です、では後ほど現場で。常守監視官」

デバイスをひとふりして通話を切る。
ついで送られてきたデータを一通り眺めて小さくため息をつく。

「殺人銃がお出ましになるかな」

被疑者、喜汰沢旭の動向と色相の変動具合からみても更に犯罪係数があっかするのは目に見えていた。
何故今回に限って色相が濁ったのか謎ではあるが、免罪体質でないのならば特に問題はない。
喋る銃に従って彼らの指示通りやればいい、それだけの話だ。

「こちら葦簀、間もなく現場に到着します」

今日も私の世界は平常に廻り出す。






(機械に育てられた子羊)
(その目は透明に霞んでく)


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