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現場に向かうときの護送車の中は基本静かである。
モニター以外の明かりがない狭い空間で対した会話があるわけとなく、ただ黙って下を向いている。
別段一係の仲が悪いわけではない。
ただこの外界から光も音も遮断された沈黙の空間を態々破ろうとする人がいないというだけの話である。

ふと車のスピードが徐々に緩くなっていくのを感じて顔を上げる。
バチリと音をたてて付いたモニターに廃棄区画に群がる人とその間に微かにコミッサちゃんの赤いランプが点滅している。
物珍しさに集まった野次馬に小さくため息をついて手元のデバイスに対象の情報をうかべる。

『大倉信夫、街頭スキャナーで色相チェックに引っかかり、セキュリティドローンがセラピーを要求したが拒絶して逃亡。記録したサイコパスはフォレストグリーン、高い攻撃性と脅迫観念が予想される。
...かなり手がかかりそうですね』
「おまけに薬物まで手だしてる可能性あるんでしょ」
『あと人質も』

そう付け加えれば面倒くせぇとこぼして縢はずるずると前のめりにしていた体勢を椅子に戻していく。
そんな彼に思わず苦笑いしてしまうが実際名奈も似たようなところだった。
只でさえ興奮しているだろう上に薬物まで決められていたら、ほとんどまともな交渉の余地はない。
人質に関しても若い女性ならサイコハザードを起こしている可能性は高い。
誰がたすかるわけではなく、ただシュビラに裁かれるのが二人になっただけ。

『...愚かなことなのに』
「ん?なんか言った」
『え、いや、特には』

不思議な顔をする縢に慌てて首を横に振る。
そっと目をそらして前を向けば自然と正面に座っていた狡噛の姿が目に入る。
目を閉じている彼の顔を暫く無言で眺める。
彼はさっきの呟きを拾っていたのだろうか、そう思い見つめているとゆっくりと狡噛の目が開く。

「...平気か」

そう小さく動いた口にはっとする。
きっと狡噛のあの強い瞳がこちらを射抜いてるのだと思うと自然と今度は目がそらせなかった。

護送車が止まり、ドアの開く音がする。
光が差し込んで途端に雨の匂いが鼻をつく。

スロープを順に下りるため次々と立ち上がり最後に名奈と狡噛が残った。
先に立った狡噛は無言でその手を差し伸べる。
そんな彼と彼の手を何度か見比べるて名奈は静かに笑った。

『平気です』






(はじまりの場所は)
(いつだって温かい)

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