張りつめた上を均すのは
この男にはさして期待はしていなかった。
確かに幾つものアバターの個性を完璧に熟知し模倣する能力は素晴らしく感じたが、原理が分かってしまえば何のことはない
ましてそれが御堂将剛自身に個性が存在しなかったという話なら...
骨折り損もいいところである
双眸を片腕で覆う
決して悲しい訳ではない
哀れだなという感情しか抱けなかった。
ただ一つ御堂が最後に言っていた台詞が槙島にとって気掛かりだった。
「アレもあんたの差し向けだったのか!?」「何のことだい?」「とぼけるな!あんなのが刑事な訳がない!あんたの駒か何かに決まってる」「そんな人間が公安局にいるのか…」
そう呟き槙島は携帯を手に取る。
暫くすると画面の向こう側から一人の男の声が聞こえてきた。
「あぁ、槙島の旦那じゃないですか」「済まない。一つ確認しておきたい事があってね」
「なんでしょうか?」「御堂将剛に妙な贈り物をしていないかい?」
「いいえ、してませんけど。何かありましたか?」「何もしてないなら構わない。手間をかけさせたね」
携帯の終話ボタンを押す。
そのまま携帯を手のひらの中で弄ぶ
御堂が何をされたかまでは知らないが、あそこまで取り乱していたのだ。
余程の事をされたに違いない
「面白い子だといいな」
呟いた声は部屋の静寂に溶け込む。
槙島は薄く笑うと携帯を机の上に置いて部屋から出て行った。
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