閑話

静かな夜だった

あんなに喧嘩していた両親の声が聞こえてこない時点でおかしいと疑うべきだった
家中の電気は切られていてもの音一つもしない。寝ているのかと思ったが寝室には誰もいなかった

仕方なくリビングの扉を開けた私の視界に入った光景に目を見開く。

そこに広がっていたのは"赤"

そしてその中に佇む一つの影

いくつもの情報と感情が頭の中をグチャグチャしていく。
思わず立って居られなくなって
意識がとんでいた


気付くと何故か床には先程より増えている赤の量

佇んでいた影も今は両親と同じ状態になって倒れている
ふと、自分がナイフを持っていることに気付く

依然として何が起きたのか分からない。むしろさっきよりわからない事が増えている。

呆然としていると後ろから声がかかる

「やぁ、久しぶり。相変わらず君は僕を愉しませてくれるね、"名無"」
その声には愛おしむ様な甘さの裏に惑わすような毒気があった





『っ!』
名奈は勢いよく飛び起きる
何かとてつもなく怖い夢を見ていたようだ。

人間は自分が思い出したくない記憶にカギをかける事ができるというがそれが無意識のうちにかけられたのだろう
思い出そうとすると頭が痛くなる。

(毎度毎度、何なんだろう…)

このままもう一度寝ようと思ったが、かなり魘されていたシャツには汗が染み込んでうっすら湿っている

(気持ち悪いしシャワー浴びよう)

そうして名奈はベッドから下りた。
冷えた床が火照っている体を冷やすようで少し落ち着いた

#

ガシャン
ガシャン!

薄暗い部屋の中で狡噛はサンドバック相手に鍛錬をする
強烈な狡噛の蹴りにサンドバックは歪な音をたてながら揺れる

サンドバックの揺れが収まるのを見てから狡噛は冷蔵庫に向かい中からペットボトルを取り出しその水を被る

ピシャ…ピシャ…

頭にかけた水が髪をつたい鍛えられた上半身に垂れていく
体が暖まっている為か、
水が身体の上を滑る感覚がやけに鮮明だ。

(………)
水が垂れていくのを黙って感じていると、部屋の入り口に先程までなかった気配をみつける

顔をあげてみるとそこには同じく頭を濡らしている名奈が立っていた。どうやらシャワーを浴びていたようだ

しかし自分の記憶だと彼女は自分の寝室で寝ていたはず
(まさか自分の鍛錬中の音が寝室まで漏れていたのか?)

「どうした? 寝ていたんじゃなかったのか」
『さっきまで寝ていたんですけど急に目が覚めちゃって…』
「すまない、うるさかったか」

すると名奈はいきなり謝られてビックリした様子だが直ぐに取り繕うように話し始める

『ち、違います、狡噛さんは悪くありません。ただ、少し夢見が悪くて…』
「! そうか…」
『はい、だから狡噛さんは気にしないで下さい』

そう言って笑う名名奈は少し辛そうな感じが見えなくもないがあまり深く踏み込むと、名奈は逆に隠そうとするから
狡噛はそれ以上追求はしなかった。

穏やかな空気になったので彼女の頭でも撫でようかと手を伸ばそうとした瞬間…

『狡噛さん、頭濡れてます』

逆に頭を掴まれた
足りない身長を補う様に背伸びをしているがそれでも足りてない。

かなりの力で頭を押さえられながら狡噛は至近距離にある名名奈の顔を見つめた

「…別にこれくらい拭かなくても風邪はひかない」
『それでもダメです。わたしが心配です』

まるで母親のように人のことを心配する名奈

自分よりかなり年下なのに彼女は本当にしっかりとしていると思う。

只この至近距離で自分の事を心配する姿は狡噛の目にはいささか無防備に映った

思わずクツクツと笑いがこぼれる。

「もう、風邪なんかひいたら笑い事じゃないんですからね』
「あぁ、すまない」

そう言って狡噛は目の前にあるそれに口付けた。

『…!』
いきなりのことに名奈は呆然としてしまい対応することができない。

そんなことをしている間にも狡噛は名奈の唇を食むように口付けを続ける

目を開けていると狡噛の妖艶な雰囲気に相まって口付けが余計生々しく感じてしまう

名奈は必死に目を閉じて口付けが終わるのを待つが中々終わらない

苦しくなってきてしまった名奈はやんわりと狡噛の胸元を叩くすると存外簡単に狡噛は解放してくれた。

安心して一度深呼吸をする

狡噛に文句を言おうと顔を上げるとまたしても口付けられた
しかも、先程よりも深くだ。

ただでさえキスに慣れてない上に舌までいれられてしまえば名奈に抵抗の余地は残っていない。

そんな名奈の動揺を他所に狡噛は楽しんでいた
そっと舌を絡めれば名奈はビクッと肩を揺らす

『んっ!』
そんな初々しい反応すら狡噛の加虐心を煽る

ふと、自分の肩に名奈の手が苦しそうにかかる

(流石に限界か…)

そう思い狡噛は最後に名奈の唇を舐める

『はぁっ、はぁっ、はぁ…』

しばらくして息を整え終えた名奈は、これでもかというくらい顔を真っ赤にし狡噛に抗議する

『何なんですか、いきなり!』

すると狡噛は口元を拭い此方を流し見しながら
「最近、こういう事してないと思ってな」
『…//// こ、こんな事そうそうしません』
「そうか、俺はそうは思わないが」

と、余裕綽々にそんなことを言う狡噛に名奈は声も出ない

すると狡噛は名奈を抱きしめる
また何かされるのかと名奈は警戒するが…

「そう警戒するな。もう何もしない。俺も退院したてで、少し人肌が恋しくなっただけだ」

狡噛らしくない甘い台詞に名奈は瞠目するが、狡噛の顔に浮かぶ笑みにその言葉が冗談だと理解する


『……それ、嘘ですよね』
「何故?」
『顔が笑ってます』
「! そうか」
『もう、やっぱり嘘じゃないですか』

(狡噛さん、いつまでこの姿勢なんですか?)
(あと、少しだ。)
(……! やっぱりダメです、風邪ひいちゃいます)
(まだ言うか)

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