変わった温もり 変わらない想い

「え、デートですか?」
「そうそう、心也クンと行きたいとか思わないの?」

いきなりの唐之杜の質問に名奈はおもわず仕事の手を止める。
休憩と称してやって来た唐之杜と世間話をしていたのだが何故かいきなり自分と狡噛の話になった。

「…行ってみたいですけど狡噛さんは監視官で忙しいし私は執行官の身ですから、ホイホイと外に出掛ける事は出来ませんよね、狡噛さん?」
「……」
「ほらね、それに私毎日狡噛さんと顔あわせるだけでも凄く満足しているんです。
デートなんてしなくてもいいんです」
唐之杜から健気ねぇと言う声が聞こえる。健気でもなんでもない
これは本心だ。
普通の同年代の女子からみたらかなりおかしな感覚なのかもしれない、それでも名奈は自分を不幸だとは思わない。今まで味わってきた境遇に比すれば可愛い悩みなのだから…

「名奈、週末非番か?」
「え、そうですけど…」
「そうか、じゃあするかデート」
「…はい?」

#

相変わらず素晴らしすぎる程の景色だ。常に街頭を覆っているホログラムは人々の精神衛生上
好ましい美観が保たれていると言われているが、その押し売りも伊達ではない。
本当にシュビラシステム様々だと思う。

「じゃあ行くか」
「はい。」
「何処か行きたい場所あるか?」
「……」

沈黙が流れる。
デートをすると言っても何処に行くかまでは決めていなかった
そもそも一年前から任務以外で外に出ることは無い
正直何があるか分からないのだ

「じゃあショッピングモールで良いですか?」
「あぁ、良いぞ。」
そう言って狡噛は手を差し出す

「?」
「手、繋いだ方がはぐれなくていいだろ?」

どうしてこの人は自分の喜ぶ事ばかり出来るのだろう。
さり気ない気遣いに思わず胸が高鳴る。
そうして改めて自分は狡噛のこういう所が好きなのだと自覚させられる。

「はいっ!」

名奈は狡噛の大きな手に自分の手を重ねる
一年前はこうして彼の温もりを直に感じる事はなかった

(温かいな、狡噛さんの手)

この手を離したくないと切に思う。あの時絶望の中から掬い上げてくれたのもこの手の温もりだったのを名奈は鮮明に覚えている。
だからこそ手放したくないのだ
ずっとこの人の隣にいたい

そう思いながら狡噛の手を確かめる様に握りしめていると
反対の手についてるリストバンドからアラームがなる。
「!」
「名奈」

反射的に手を離してしまった名奈はそのまま人の波に流される

「狡噛さん、狡噛さん!」
(嫌だ、離れたくない
今一人になったら…)




「名奈!」
「!」

目の前に灰色のシャツが広がる
思わず上がっていた息を整えながら頭の中を整理する。

今は何時だろう?
狡噛の部屋に来てから何時間たったのだろう?

あまりにも眠れなくて彼の部屋を訪ねたまでは記憶があるが
その先を思い出そうとすると億劫になってくる。

ふと、視線を感じる

顔を上げると狡噛が此方を見ていた。
その瞳は全てを見透かしそうで…
怖くなり薄く笑って見せる。

すると狡噛は目を細め名奈の背中をあやす様に叩く。

近くに感じた体温が昔と違う事を改めて実感した
冷たくなった訳ではない、
しかし三年前から確実に何かが、欠けてしまったような…

「名奈、今日非番か?」
「…はい」
「じゃあもう少し寝るか」
「……はい」

思わずさっきまで見ていた夢を思いだして複雑な気持ちになるが狡噛はそんな事は露知らず
大きな欠伸をしながら二度寝の態勢に入る。

そんな彼をを見つめたあと名奈は彼の胸に顔を埋める

彼の心音が頭の中に響く

願わくば、この音だけは変わらずにいて欲しいと…


(距離は変わらない)
(想いも変わらない)
(だから余計に変わってしまった温もりが恋しくなった)

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