弱虫ペダル | ナノ


  オレンジ日常


桜が咲き始めるほんの少し前の季節。
この蕾を見るのは2度目になった。
寮から校舎前に向かう道に見慣れた2つの背中を見つけて夏樹は思わず駆け寄る。

『寿一、隼人、おはよう』
「夏樹か、おはよう」
「はよ、ってかおめさん1人か?」
『クラス替え気になってちょっと早く出てきたの。2人もこれからでしょ、一緒に行こう』

福富と新開に並ぶように歩きながら掲示板へと足を進める。
パワーバーをくわえながら歩く新開と歩く速さを然り気無く落として隣に並んでくれる福富。
相変わらずな景色と雰囲気に思わず頬が緩む。

「朝からご機嫌だね夏樹、そんなにクラス替え楽しみ?」
『うん。今年も寿一と同じクラスになれたらいいなって、ね、寿一』
「あぁ、そうだな」
「おいおい、俺は仲間外れか」

そう言いながら新開が背中に負ぶさってくる。
図体のいい新開の体重は背負うには重くてずしりと加わるそれに小さく呻き声をあげると「ゴメン、ゴメン」と謝られる。
頭に置かれていた腕が下がって首へと回される。
自然と顔が近付いた。

「俺と一緒は嫌かい?」
『そういうわけじゃないけど隼人はすぐこういうことするから同じクラスは大変そうかなって』
「夏樹にだけだよ」
『はいはい、乗せるのが上手だね』
「そんなとこでなァに集まってんの」
「おい、待て、俺を置いてくな!」

軽く手で遮るようにして新開と距離をとるように向き合うと彼の後ろに荒北と東堂の姿が見えた。
クラス替えの掲示板の方から向かってきた2人はどうやらクラス分けを既に見てきたらしい。
すたすたと東堂を置いて此方に向かってくる荒北に手をふる。

『おはよう荒北君、クラス分け見てきたの?』
「ハヨ。見てきたぜ、俺と福ちゃんがA組で新開と夏樹ちゃんがC組、あのうるせーのはぼっちだ」
「ぼっちとか言うな、可哀想に聞こえるだろ!」

荒北の言い方が気に入らないのか東堂は大声をあげながら彼にもの申しているが言われてる当の本人は福富と宜しくと挨拶を交わしている。
いつもより空気が柔らかくなってる荒北を眺めてるといつの間にかまた後ろに回っていた新開に声をかけられる。

「今度はどんな面白いことがあった?」
『いや、寿一と同じクラスになれたの嬉しいんだろうなって思って。荒北君分かりやすいから』
「それは言えてるな」
「なァに言っちゃってんのォ、夏樹ちゃん?」
『い、いひゃいよ、ありゃきたくん』

突然片方の頬をつねられたのでそちらを向くとそこには口元を引きつらせていた。
小さく動かされる度に頬に地味な痛みが走る。
ごめんなさい、と謝ると荒北は「余計なこと言うんじゃないのォ」と言って手を離す。

「てかお前いつまで夏樹ちゃんに寄りかかってんの?どいてやれよ」
「靖友もさっきまでちょっかい出してたろ、お互い様だぜ」
「だァから俺はもう止めただろ、辛そうだから止めてやれってんの」
「辛い夏樹?」
「辛いに決まってんだろ、バァーカ」
「荒北、少し口が悪いぞ」
「お前たち俺を空気扱いするなー!」

やれよやれよと自分を無視して盛り上がってく4人に夏樹は呆れるしかなかった。
やはりこの4人が揃ってると賑やかにならずにはいられない。
先程の言葉は訂正しようと思う。
この4人が揃ってこその見慣れた風景、それが1番好きだ。
思わず溢れる笑い声を抑えようと口元に手を宛てて俯いているとそれに気付いたのか4人に不思議な顔をされた。

『みんなのこと好きだなって思って』






(何気に夏樹ちゃんって不思議チャンだよね)
(昔からこんなんだよな、寿一) (そうか?)
(フクも似た者同士ということだな)

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