弱虫ペダル | ナノ


  少年Mの遭遇


「あ、これ遅刻だよね」

ふと見下ろした時計の短針は9を指していて朝のホームルームは30分ほど前に終わってしまってる。
まぁ珍しくもないから焦るわけでもないんだけど。
折角朝早くに目が覚めたからちょっと遠出して来たんだし登らない訳にはいかないでしょ。
それに今日は何だか胸が逸ってるからいつもと違うことが起きる気がする。

「!」

あぁ、ほらやっぱりだ。

「夏樹さん!」
『あ、真波くん』

早起きはなんとかってやつだよね。




* * *




夏樹さんと初めて一緒に走ったのは1年前の秋くらいだった。
日差しが柔らかくなって風も気持ち良かったから凄く気分が良かったのを覚えている。
あの日もなんだか理由のないわくわくが登っていくうちに募っていってペダルを踏み込む脚も力強くなっていた。

山の真ん中過ぎた辺りでふと視界の隅に何かが写ったのが気になって目を凝らした。
そうしたらそれがロードレーサーに乗ってる人でしかも女の人だったのが最初。
物珍しさに走る姿を近くで見てみたいと思ったのと出来れば勝負してくれたらなんていう願望が沸き上がってギアをあげた。

「あれ、おっかしいな」

スピードは上がった筈なのに前の背中は思ったよりも大きくなった気がしない。

「ノッてくれるってことかな」

もしかしてオレが後ろに居るのに気付いていてそれで追い付かれないよう逃げたんだとしたらそれってオレに抜かれるつもりないって事だよなって考えたらもうテンションが凄く上がって。
無言の返事ってのもカッコいいし、何よりこの距離で後方に気付いてしまう敏感さに尊敬した。
ギアを飛ばして上げれば脚がズシンと重くなった。
少しいきなり過ぎたかもしれないけどそれでも良かった。心臓の脈打つ早さが上がって強くなる鼓動に堪らなく生を感じる。

「待ってよ、もっと近くで一緒に走りたいんだ」

詰めるように寄っていって気付いたのはフォームが物凄くキレイだったってことと思ったより線が細かったってこと。
でも代わりに走る姿が軽くて風なんじゃないかなって思うくらいだった。

「ねぇおねぇさん、オレと勝負してくれない」

改めてそう問いかければ言葉は返って来なかったが代わりに挑戦的な笑みが返ってきて思わずゾクッとした。
その日オレは負けたけどいずれは箱学に入学する事を伝えたらまた勝負しようって夏樹さんは言ってくれた。
まぁその前に何度か会ったりして今に至ってたりするんだけど。




* * *




「はー楽しかった」
『私も。でも真波くん...』
「ん?」
『そろそろ退いてくれないかな、私も脚疲れてるから』
「だって夏樹さんの脚、気持ちいいんですもん」

今日はオレが勝ったから膝枕してってお願いしてからかれこれ30分くらいかな。
困った顔してる夏樹さんも可愛い。
あの日の笑みが忘れられなくていつの間にか夏樹さんに惹かれていた。
色々アプローチしてるんだけど年下の男の子ってことでちっとも相手にしてくれない。

「じゃあ退くんでまた勝負するって約束してくれます?」
『真波くんそればっかりだね』

だからまたオレは一緒に走れるように、遇えるように次を取り付けるんだ。
「また今度ね」って言って小指を差し出してくる夏樹さんにオレも同じようにして絡める。
まぁ来年入学するまではこれくらいの距離で我慢しようってそんなことを考えながら。






(そういえば真波くん学校は?)
(...もうこのまま休もっかな)


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